派遣型の「風俗サービス」を利用した夫が、「本番行為を強要した」との疑いで逮捕され、10日間以上も拘束されたうえ、示談のために高額の金銭を支払うことになった──。そんな体験を語るのは、50代の女性だ。
夫の解雇も覚悟し、離婚まで考えた。しかし、それでも「かすめただけで、本番を強要していない。むしろ女性のほうから持ちかけられた」と主張する夫の言葉を信じている。
愛する夫が突然逮捕され、さらに風俗店利用の事実まで突きつけられたとき、家族には何が起きるのか。また、自衛のために何ができるのか。専門家に風俗店をめぐる「本番強要」トラブルの実態を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●数万円で本番を女性から持ちかけられ、断ったということだが…
取材に応じた女性は「夫は店ぐるみのハニートラップにかけられたのだと思う」と話す。
女性によると、会社勤めの夫は今年、出張先の東京で仕事を終えたあと、宿泊先で派遣型の風俗サービスを利用した。
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規定料金を支払い、サービスが始まってしばらくすると、規定料金の倍以上の金額で「本番はプラス○○円」と女性から持ちかけられたという。
夫はこれを断ったが、その後のサービス中に互いの股間部位が「かすめ」ると、女性は「本番を強要された」と通報したという。
ホテルに駆けつけた警察官から、「一部でも挿入したのか」と問われ、夫が動揺のあまり「もしかしたら」と曖昧な返答をしたところ、不同意性交等罪の疑いでそのまま逮捕・勾留されたという。
●翌日、会社も警察沙汰を把握した
勤務先は、夫が翌朝出社しなかったことから、捜索願を提出。警察署にいることが判明した。妻のAさんも、会社からの連絡で初めて事態を知った。
しかし、この時点から釈放されるまで、Aさんには、夫がどんな事件に巻き込まれたのか、まったくわからなかったという。
東京から遠方で暮らす彼女が頼りにできるのは、弁護士だけだった。弁護士からは「被害を受けた相手がいる」「示談金が必要」という情報だけが伝えられたそうだ。
夫が何をしたのか、何に巻き込まれたのか──。具体的なことはわからないまま、不安で眠れない日々が続いた。
夫は本番行為はおろか、強要もなかったとするが、「冤罪」を主張する気力はなく、相手側の要求に応じて示談金を支払う方針が進められていった。
結果、Aさんが工面した示談金が支払われ、夫はようやく釈放された。
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●夫の告白→ぶん殴る→冷静になる
電話で久々に夫の声を聞き、Aさんは初めて「デリヘルの利用」「本番強要の疑いでの逮捕」を知った。
帰宅した夫を玄関先で「ぶん殴った」とAさんは振り返る。夫は会社にも正直に伝え、不問とされたため、覚悟していた「クビ」だけは免れた。
ただ、子どもたちも事情を知り、今もAさんや家族に「頭が上がらない」状態だという。
「離婚も考えました。でも20年以上の結婚生活がありましたし、本人が『初めてだった』『酒の勢いもあった』と言うので、私に操を立てて、本番を強要していないという言葉を信じようと思いました」
もちろん、妻との関係修復という動機がある以上、夫の説明がすべて事実とは限らない可能性には留意する必要がある。
●「悪質な店があることを知ってほしい」
夫の言葉を信じるAさんからすれば、夫は「ハニートラップの被害者」という立場だ。
夫の弁護士が、女性個人ではなく、「店側」を相手に交渉していたことを後から知ったという。
「一番悪いのは、デリヘルを利用した夫です。でも、なぜ女性ではなく、店を相手に大金を支払う必要があるのかわかりません。
夫が被害に遭ったと考える妻としては、このように本番強要されたと被害届を出して、示談金をせしめる悪質な風俗店があることを世間に注意喚起したいのです」
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今回、夫は家族を失う危機と、仕事を失う危機だけは逃れられた。これはまだ不幸中の幸いだったのかもしれない。自宅のローンはまだ10年残っているという。
●「店ぐるみ、個人の美人局どちらもありえる」
本番強要が「冤罪」の場合に、どんな自衛策をとることができるだろうか。
本番強要のトラブルをめぐる相談を受けたことがあり、風俗店の問題にくわしい林本悠希弁護士に取材した。
──風俗サービス(デリヘルなど)で客が本番行為を強要した場合、どんな罪にあたりますか。
不同意性交等罪(刑法177条1項)が成立する可能性があり、法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」と非常に重いものになります。
相手にケガを負わせれば、不同意性等交致傷罪(刑法181条2項)となり、「無期または6年以上の拘禁刑」とさらに重くなります。
──いわゆる「美人局」的な悪質な店もありますか。
弁護士としての経験上ですが、店ぐるみの場合も、女性個人でやっている場合もあり得ます。
風俗店で働く女性側から「本番行為を強要された」という相談を受けることもありますが、私自身が美人局に加担しないよう、慎重に次のような状況証拠を確認します。
・被害の具体的状況や証拠関係 ・被害後すぐに警察を呼んでいるか ・精液の付着の有無(付着の場所)の検査をしているか
結果、被害者であるという確信を持てない場合、受任を断ることもあります。
捜査機関としても、このような「密室での出来事」を立証するには、状況証拠に頼るしかありません。行為中の映像や録音があるケースはまずありません。上述したような観点を、捜査機関としても重要視し、証拠集めをするのが基本です。
●警察を呼ばれたら「録音」が重要な証拠になりえる
──身に覚えがないにもかかわらず、通報された場合、まずどうすべきでしょうか。
客側としては、現場で女性から警察に通報するような流れになった段階から、やり取りの録音を始めることをおすすめします。
それが後々、重要な証拠になることもあり得ます。
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たとえば、店の人がホテルまで来て、客に対して「示談金を払え!」などと脅迫してきた場合、このような脅迫の事実をもって「美人局ではないか?」という推定にもつながってきます。
また、警察が来ることがわかった後でも、その場から逃げないでください。
逃げること自体が、不利な証拠になる場合もあり得ます。これは痴漢の冤罪に巻き込まれるケースと同じです。
逮捕された場合には、当番弁護士が当日か翌日に来ると思いますので、それまでは基本的には黙秘してください。そして、逮捕されないとしても、任意の取り調べに応じる前に、弁護士に相談に行くことをおすすめします。
また、そもそも論として、風俗に行くなとまでは言いませんが、店に行く前に、その店の口コミをしっかりと調べ、いわゆる「危ない橋」は渡らないことが一番の予防策になると思います。
●逮捕されて「冤罪」を主張できるのは一握り
──多くのケースで問題になるのは密室での行為です。基本的には示談を目指すのでしょうか。
非常に難しい問題ではありますが、事実上、多くのケースで、やっていようがやっていまいが、示談を目指すことが多いと思われます。
その理由ですが、日本の司法では、捜査段階において、警察がどのような証拠を持っているのか、弁護人にはほとんどわかりません。ゆえに、起訴・不起訴、有罪・無罪の見通しが非常に立ちづらいからです。
上述のとおり、不同意性交等罪は、前科前歴がなくとも実刑になる可能性がある非常に重い罪ですから、万が一にも起訴され、有罪になった場合のダメージは計り知れません。
それを考えると、示談して、起訴を免れる(起訴後なら執行猶予を得る)というのが、1つの有力な選択肢になってきます。
なお、あくまでも一般論ですが、不同意性交等罪は、示談しても起訴されたり、執行猶予が付かず実刑になる可能性も十分ある重い罪ですが、風俗店絡みの不同意性交等罪の場合、示談すれば、不起訴や執行猶予は比較的得やすいと思われます。
●「誓約書」を書くメンズエステに注意
──ほかに注意すべきことがありますか。
「メンズエステ」に関するトラブルは増えている印象です。表向き「風俗ではない」という建前があり、施術前には「性的サービスを求めない」といった誓約書にも署名させられます。
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このため、何かトラブルがあったときに、客側がより疑われやすいのが、風俗ではない建前をとっている「メンズエステ」だと言えると思います。
実際、メンズエステの「建前」を利用した悪質なセラピストや店に関する相談を受けたこともあります。風俗店を利用される際には「危ない橋」は渡らないように気をつけていただきたいと思います。