クマの気配が日常のものとなりつつある地域では、そこで暮らす人たちが「自衛」のための行動を取る必要に迫られている。
東北6県で広く展開するホームセンターでは、「クマ対策コーナー」を売り場につくり、市民の需要に応えようとしている。
今年9月から11月にかけて、秋田県では「クマ撃退スプレー」が昨年同期比で20倍の販売数を記録した。この動きはそのまま市民の不安を表しているとも言えそうだ。
●クマによる死亡者数は13人にのぼっている
環境省によると、今年のクマによる死亡者数は13人、緊急猟銃の件数も38件にのぼる(11月20日時点)。
クマにおびえる人たちは、遭遇しないため、あるいは万が一にも遭遇した場合に備えるため、自衛の対策をとるようになった。
クマの出没が相次ぐ東北の秋田県が公開している「基本の対策」では、鈴やラジオで音を立てる、クマが食べるものを放置しない、家の周囲などのやぶを刈り払って見通しをよくする、といった行動が推奨されている。
販売店では、鈴やホイッスルなどの売れ行きに大きな変化があるという。
●クマ撃退スプレーは20倍、爆竹も8倍
東北6県に展開するホームセンター「サンデー」(本社・青森県八戸市)では、クマ対策グッズが前年とくらべて販売実績に明らかな動きがみられる。
岩手県盛岡市にある店舗外観(2017年11月)
同社の担当者によると、主に秋田と岩手で販売数量が伸びているという。
秋田県と岩手県におけるサンデー店舗の販売実績(9月1日〜11月24日における販売数量で、昨年同期比で何倍売れたか)を教えてもらったところ、たとえば「クマ撃退スプレー」は20倍も売れたことがわかった。
・クマ撃退スプレー(岩手9倍、秋田20倍)
・熊よけスプレー(岩手7.5倍、秋田10倍)
・熊よけホーン(岩手6.5倍、秋田8倍)
・爆竹類(岩手4.5倍、秋田8倍)
・鈴類(岩手8倍、秋田13倍)
岩手県盛岡市にある店舗で販売されるクマよけスプレー
●逆に危ない? 「元自動ドア」を閉め忘れる人も
また、出没リスクが高い地域の店の中には、クマが勝手に入ってきてしまうおそれがあるため、自動ドアの電源を切って手動に切り替えた店もあるという。
手動切り替えの動きはサンデーに限らず、公共の施設やコンビニなどでもみられる。
しかし、自動から手動にすることにもリスクがあるようだ。
「自動ドアは重いため、開ける際に強い力が必要となります。購入した商品を載せたカートで出る際に、自動で開くと思ったお客さまがぶつけてしまうこともあります。また、自動で閉じると思ってそのまま開けっぱなしにしてしまうケースもあり、責任者の判断で自動に戻した店もあります」(担当者)
サンデーでは、クマがゴミに引き寄せられることのないよう、店周りの清掃を徹底し、照明も早めにつけるようにしているという。今のところ、敷地内でクマが出没したというケースは確認されていないそうだ。
クマ対策グッズの顕著な売れ行きは、そこで暮らす人々の不安の表れとも言えるだろう。
クマ被害の報道を受けて、一時期は「モノがない」という状況もあったが、現在は供給不足ではないという。