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「裁判官ガチャが起きる」岡口元判事が感じた法曹養成の危機、予備校で「要件事実」教える意図
2024年05月07日 10時14分
#法曹 #転機のロースクール #岡口基一 #要件事実

元裁判官の岡口基一氏が、今年度から司法試験予備校「伊藤塾」で講師を務める。

岡口氏といえば、裁判当事者への不適切なネット投稿を理由に、裁判官弾劾裁判所から4月3日に罷免判決を受けたばかり。過去には、自身のブリーフ姿をSNSに投稿したことが話題になるなど、「お騒がせ裁判官」のイメージも強い。

一方、法律関係者からは、弁護士らが活用する『要件事実マニュアル』など、多くの法律書を執筆したベストセラー作家として、法的素養が高く評価されており、「セカンドキャリア」が注目されていた。

岡口氏は弾劾裁判の本人尋問で、「現在の法曹育成はうまくいっていない」と述べ、育成への関心を示していた。どこに課題があるのか、くわしく聞いた。

(このインタビューは法曹養成に関する連載企画の一環として、岡口氏の罷免が決定する前に実施しました)

元裁判官の岡口基一氏が、今年度から司法試験予備校「伊藤塾」で講師を務める。

岡口氏といえば、裁判当事者への不適切なネット投稿を理由に、裁判官弾劾裁判所から4月3日に罷免判決を受けたばかり。過去には、自身のブリーフ姿をSNSに投稿したことが話題になるなど、「お騒がせ裁判官」のイメージも強い。

一方、法律関係者からは、弁護士らが活用する『要件事実マニュアル』など、多くの法律書を執筆したベストセラー作家として、法的素養が高く評価されており、「セカンドキャリア」が注目されていた。

岡口氏は弾劾裁判の本人尋問で、「現在の法曹育成はうまくいっていない」と述べ、育成への関心を示していた。どこに課題があるのか、くわしく聞いた。

(このインタビューは法曹養成に関する連載企画の一環として、岡口氏の罷免が決定する前に実施しました)

●実務家に必須「要件事実」の教育に不備

岡口氏によると、現在の法曹教育でもっともうまくいっていないと感じるのは、自身の代名詞でもある「要件事実」についての教育だという。

要件事実とは、民事事件における生の事実を、法的に再構成した事実であり、攻撃・防御のポイントを整理する実務家の「共通言語・認識」のようなものだ。

「要件事実は、実務法律家が持っていないといけない素養の最たるもの。それを今の若い人たちは予備試験のときだけ簡単に教わって、あとは教わらなくなってしまった(編注:ロースクールでも授業はあるが、この点については後述)」

岡口氏によると、司法修習が2年あったころは、徹底的に要件事実を鍛えられたという。当時は司法研修所の研修だけでも前期と後期で計8カ月。しかし、期間は徐々に短縮され、今は1年しかない。しかも実務修習が多いため、研修所にいる期間は2カ月程度にまで短縮されている。そのため、司法研修所では昔のような要件事実教育をしていないという。

「要件事実は、弁護士になってから学ぼうと思っても、忙しくて難しい。高校物理みたいなもので、決まった時期に死に物狂いで勉強して、血肉にしないとなかなか身につかない」

●「試験に直結しないから…」ロー生の温度感

法曹人口を増やすため、2004年にロースクール制度ができ、2006年から新司法試験がはじまった。これにともない、要件事実などの実務教育は一部前倒しする形でロースクールに委ねられた。しかし、岡口氏は「教えるタイミングがマズい」と言う。

「司法試験に合格する前の人たち向けなので、どうしても簡単な話しかできない。実際に法曹になって、複雑な事案にぶつかると途端にできなくなってしまう」

このことは司法試験の傾向にも影響を与えた可能性がある。

「1回目の新司法試験の民事では、債権譲渡担保の要件事実が出ました。昔の司法研修所における起案みたいな難しい問題です。ただ、何回かすると、司法試験としては難しすぎたという反省からなのか、司法試験に要件事実の問題がまったく出なくなってしまったんです」
「要は、司法試験なのに、実務家のための研修所で2年学んだあとの卒業試験みたいな問題を出したんですね。しかし、段階を踏んでいないからダメだった。そういう意味で制度設計に無理があったんですよね」

ロースクールは司法試験に合格していない段階だから、司法研修所と同レベルの授業をすることができない。そのため、司法試験に要件事実を出題してしまうと問題が難しくなりすぎる。結果として、司法試験には要件事実が出題されなくなってしまったというのだ。

授業科目としては存在するものの、司法試験に出ないから、ロースクール生は要件事実を熱心に学ぶインセンティブを失ってしまったと岡口氏は言う。

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●予備試験受験生に要件事実教える

そうした中、「人生をかけて」要件事実を学んでいる層がいるという。予備試験の受験生だ。

予備試験に合格すれば、ロースクールに通わなくても司法試験の受験資格を得られる。それゆえ、ロースクールで学ぶ「実務科目」として、要件事実が出題されるというわけだ。

岡口氏も伊藤塾で予備試験受験生向けの要件事実を教える。

「予備試験の受験生は、ロー生以上に法律を学びはじめたばかり。難しい問題は理解できないので丸暗記ということが多い。それでも最近までは要件事実の典型問題ばかり出題されていたので合格できたんです」

要件事実が熱心に学ばれているとはいえ、暗記偏重になりがちだったところに、理屈で考える力を養う講座を提供するという。

●法曹の「質」低下、合格者が増えたせいじゃない

司法試験の合格者が大幅に増え、法曹の「質」が下がったと言われることがある。しかし、岡口氏は必ずしもそういう見方はしていない。

「人数が増えたのが問題なのではなく、増えた人数にしっかりと要件事実を教えることができなくなったのも一つの問題だったのでは。予算をつけて、司法研修所のキャパシティーと教官を増やし、2年間みっちり要件事実などの実務を叩きこむべきだと思います」

司法修習が1年になり、減った分の実務教育を先取りする形でロースクールをつくったものの、生徒のレベルが本格的な実務教育を受ける段階に達していない。実務教育は司法試験合格後にしっかりとやるべきであるという。

「弁護士がぐちゃぐちゃでも、アンカーである裁判官は全部きれいに整理しないといけない。主張の整理ができないと、方針があさっての方向にいく。『裁判官ガチャ』が起き、国民にとっては裁判を受ける権利の侵害になりかねません」

しかし、修習期間が短くなったことで、十分な教育を受けられなくなっただけでなく、採用する側もどの修習生に裁判官の適性があるかを見抜くのが難しくなっているという。

「裁判官になる子がかわいそう」と「後輩」への同情も口にした。

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