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黒字続きの並行在来線「しなの鉄道」、あえて中古じゃなく新車…人口減少時代の将来戦略
2018年07月29日 10時02分

日本有数の別荘地・軽井沢を発着する「しなの鉄道」(本社・長野県上田市)が、開業20年を過ぎてなお快走を続けている。1997年の長野新幹線開業に伴う並行在来線(第三セクター)として一時、深刻な経営危機に陥るも、大株主である長野県などからの支援に救われ息を吹き返し、最近では自らの観光企画などが功を奏して人気を博している。

社長を務めるのは、2016年に損保大手・東京海上日動火災保険から送りこまれた玉木淳氏。しなの鉄道の現状や今後備えるべき課題などについて、玉木社長に聞いた。

日本有数の別荘地・軽井沢を発着する「しなの鉄道」(本社・長野県上田市)が、開業20年を過ぎてなお快走を続けている。1997年の長野新幹線開業に伴う並行在来線(第三セクター)として一時、深刻な経営危機に陥るも、大株主である長野県などからの支援に救われ息を吹き返し、最近では自らの観光企画などが功を奏して人気を博している。

社長を務めるのは、2016年に損保大手・東京海上日動火災保険から送りこまれた玉木淳氏。しなの鉄道の現状や今後備えるべき課題などについて、玉木社長に聞いた。

●開業20周年、「真田丸」効果も大きくーー現在の収入状況について教えてください

「2017年度の運賃収入は約31億円(営業収益は約44億円、純利益は約2億円)で、このうち半分が通学定期や通勤定期による収入です。『善光寺御開帳』やNHK大河ドラマ『真田丸』(長野県東部が舞台)のような大きな話題があると、ググッと増えます。

軽井沢で言えば、避暑地であるため冬場の観光客が夏場よりかなり少ないのが昔からの傾向ですが、ここのところは雪を見たい外国人観光客が多く来る影響で、冬場の減り方も少なくなっています。東京からアクセスがよく、買い物も楽しめるという点もあると思います。

最近では真田丸の影響が特に大きかったので、その反動で昨年は収入が減るかなと覚悟していたのですが、ほとんど減りませんでした。昨年、しなの鉄道が20周年を迎えたのでその関連イベントも多く、鉄道ファンが多く来てくれたのだと思います」

ーー2014年夏に導入した観光列車ろくもんの効果はいかがでしょうか

「ろくもんのプロデュースは、水戸岡鋭治さん(著名な工業デザイナー)に依頼しました。製造から40年超経過した115系の車両を使い、3両で約1億3000万円の改造費をかけました。

信州の食材を提供するだけではなく、内装にも地元の木材を活用するなど、地域への愛着を感じてもらうように造られています。維持費や人件費などを含めても、利益を出せる状況になっています。

実は、東京海上で上司から内示があった段階で、内緒で家族でろくもんに乗車しました。食事付きとはいえ1万円を超える価値が本当にあるのかなと疑問で。自らのところだから褒めるわけではなく、本当に美味しかったことに驚かされました。料理を出すお店側も努力していて、地元の農家さんも協力してくれるのが素晴らしいと思っています」

●ろくもん乗車券、ふるさと納税にも貢献

ーー上田や小諸など沿線自治体では「ふるさと納税」の返礼品として、ろくもん乗車券を打ち出しています。ふるさと納税による効果を教えてください

「ふるさと納税への協力は、2016年12月から始めました。初月はいきなり200人からの申し込みがありました。ただ返礼率(寄付額に占める返礼品の金額)を抑えるよう、総務省から全国に通知があったことに伴い、金額を上げたため、申し込みの勢いは落ち着いています。

ろくもんは、申し込みをすれば自宅に届く返礼品とは違って、この地に来ないと乗ることができません。そのため多くの人を呼び込む一助になっている点で、自治体側の反応はすごくいいです。ふるさとの役に立っていると感じます」

●あえて中古でなく新車を導入へ

ーー沿線人口の減少などによる収益減に今後どうのぞむお考えですか

「しなの鉄道の経営自体は安定しています。一方で、沿線人口は、この20年で17%減りました。他社と同様に、これから先は厳しい状況が予想されますので、今のうちに少しずつ備えておくべきだと考えています」

ーー具体的にはどのようなことをするつもりでしょうか

「もともと開業後に債務超過になったのは、JRからの転籍組であるベテラン従業員たちの人件費がかさみ、かつ減価償却の負担も重く、耐えられなくなったのが主な原因でした。

年数が経つにつれて若返りが進んだことで結果として人件費が減り、減価償却の負担も少なくなったため、黒字の維持が達成できているのが現状です。ただ、これまで使ってきた車両が古くなり更新をしなければいけないのと、今は若い社員でも今後は勤続年数が増えるにつれて人件費が大きくなるということが見込まれます。

このため、廃線になった跡地などわずかに残っている不動産を使い、少しでも収入を増やしていきたいと考えています。駐車場やロッカーとしての活用もいいですし、集客施設を整備するのもいいと思っています」

ーー車両の更新はかなり大きな負担になりませんか

「8年かけて徐々に、車両の更新を進めることにしています。それも中古車ではなく、新車にします。確かに中古車は購入費用は安いですが、電気代やメンテナンス代などを長期でシミュレーションすると、新車の方が半分以下の費用におさまることがわかりました。『サスティナ』という、他社での運用実績があり、初期不良のリスクが低いモデルにします。

自動車にたとえるなら、新車だと車検期間が倍違うようなイメージです。しなの鉄道では急勾配にも対応する仕様にするなどの費用もかかります。地域の足を守っていくためには、新車にする必要があるという判断になりました」(更新する総事業費は約110億円。車両購入費用に対して国、県、市町からの支援も得る)

●窮屈?三セクならではの強み

ーー第三セクターでは一般的に、自治体が主要株主で、何をするにも調整ばかりで大胆なことがしにくいという指摘もありますが、しなの鉄道は正直なところいかがでしょうか

「しなの鉄道は、大株主が長野県で、自治体からの出資比率や取締役の数も他の第三セクターの鉄道会社とそう変わらないと思います。やはり、トップに立つ人間が現状を変えたいかどうかです。私は地域の役に立てることは何かというスタンスで常に考えています。

第三セクターって窮屈じゃないかと言われることもありますが、しなの鉄道の経営は安定していて黒字で、現状では自由度が高いと感じています。逆を言えば、赤字が続いている状態のままだったら、そうはいかなかったかもしれません。

自治体は株主であると同時に、しなの鉄道が抱える様々な課題の当事者でもあります。私は、自治体から頼られることがあれば一緒に考えますし、逆に頼ることもしたいという考えです。通常の民間企業なら、自治体はそこまで当事者意識を持たないので、こうしたことはしにくいでしょう。これはむしろ、第三セクターだからこその強みだと思います」

【プロフィール】

玉木淳(たまき・あつし)47歳。新潟市出身。大学卒業後、東京海上(当時)に入社。営業担当として、福井、名古屋、長崎での勤務を経験後、東京勤務。しなの鉄道の社長に就任して、長野での生活に魅了された。日本酒に加え、日本ワインも愛するように

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

(弁護士ドットコムニュース)

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