11420.jpg
妊娠を理由に帰国迫られ「流産」 元実習生が勝訴した「裁判のポイント」は?
2013年08月29日 15時07分

外国人技能実習生として働いていた中国人女性が強制帰国を迫られたとして、会社と受け入れ団体に解雇無効などを求めた訴訟で、富山地裁は7月、女性側勝訴の判決を言い渡した。判決は8月に確定した。

女性は2010年12月に来日し、富山市の食品加工会社で働いていたが、11年6月に妊娠が判明。すると受け入れ団体は無理やり車で富山空港に連れて行き、強制帰国させようとした。その後、女性は流産。このことについて女性が記者会見を開いたところ、会社側は女性を解雇した。

報道によると、女性は来日前、中国側の送り出し機関との間で実習中の妊娠禁止の規定を含む書面に署名していた。だが、地裁はこれを「不適切な契約内容」「実習制度の趣旨と公序良俗に反する」と指摘、解雇を無効とした。さらに帰国の強制と流産の因果関係も認定し、会社と団体に損害賠償と未払い賃金の支払いを命じた。

女性の主張が全面的に認められた形だが、何がポイントになったのだろうか。中森俊久弁護士に解説してもらった。

●外国人実習生に対しても労働関係法令が適用されるようになった

「そもそも外国人研修・技能実習制度は、途上国への技術移転を通じた国際貢献が目的です。研修生・実習生は、受け入れ期限の3年間に様々な技術を身につけて、本国へ帰るというのが建前となっています。

しかし、それは名ばかりで、実際には、農業・漁業・縫製などに従事する人員不足の解消のため、『単純労働力』として利用されている実態があります」

――技術は伝えず、単に「安い労働力」と見なして、下働きをさせているということ?

「そのような側面は否定できません。本来あるべき目的との乖離の中で、外国人研修・技能実習生に対する様々な権利侵害の事実が浮き彫りとなっています。パスポートを取り上げ、時給300円で残業をさせるなどといった不当な人権侵害が、これまでも多数報告されています。

このため、2010年7月に改正入国管理法が施行され、これまで研修期間とされた1年目の実習生に対しても労働関係法令を適用する等の制度変更がなされました」

――現実への対処ということだろうが、それでは「外国人研修・実習生に単純労働をさせている」ことを、政府も事実上認めたように読めてしまうが……。その改正で事態は改善されたのだろうか?

「いいえ、残念ながら。同年10月に来日した中国人技能実習生に対して本事件が発生していることからも分かるように、受入先と技能実習生との支配従属的な関係等から生じる問題は後を絶ちません」

――そういった背景・経緯を考えると、今回の判決は当然?

「その通りですね。妊娠禁止の規定を含む契約が公序良俗に反することは明らかで、本判決は、当然のことを認定したものです。

こういった技能実習生の処遇は、早急に改善する必要があります。さらに、目的と実態が乖離した本制度を抜本的に見直し、外国人労働者の受け入れについて正面からの議論を行うことも必要でしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

外国人技能実習生として働いていた中国人女性が強制帰国を迫られたとして、会社と受け入れ団体に解雇無効などを求めた訴訟で、富山地裁は7月、女性側勝訴の判決を言い渡した。判決は8月に確定した。

女性は2010年12月に来日し、富山市の食品加工会社で働いていたが、11年6月に妊娠が判明。すると受け入れ団体は無理やり車で富山空港に連れて行き、強制帰国させようとした。その後、女性は流産。このことについて女性が記者会見を開いたところ、会社側は女性を解雇した。

報道によると、女性は来日前、中国側の送り出し機関との間で実習中の妊娠禁止の規定を含む書面に署名していた。だが、地裁はこれを「不適切な契約内容」「実習制度の趣旨と公序良俗に反する」と指摘、解雇を無効とした。さらに帰国の強制と流産の因果関係も認定し、会社と団体に損害賠償と未払い賃金の支払いを命じた。

女性の主張が全面的に認められた形だが、何がポイントになったのだろうか。中森俊久弁護士に解説してもらった。

●外国人実習生に対しても労働関係法令が適用されるようになった

「そもそも外国人研修・技能実習制度は、途上国への技術移転を通じた国際貢献が目的です。研修生・実習生は、受け入れ期限の3年間に様々な技術を身につけて、本国へ帰るというのが建前となっています。

しかし、それは名ばかりで、実際には、農業・漁業・縫製などに従事する人員不足の解消のため、『単純労働力』として利用されている実態があります」

――技術は伝えず、単に「安い労働力」と見なして、下働きをさせているということ?

「そのような側面は否定できません。本来あるべき目的との乖離の中で、外国人研修・技能実習生に対する様々な権利侵害の事実が浮き彫りとなっています。パスポートを取り上げ、時給300円で残業をさせるなどといった不当な人権侵害が、これまでも多数報告されています。

このため、2010年7月に改正入国管理法が施行され、これまで研修期間とされた1年目の実習生に対しても労働関係法令を適用する等の制度変更がなされました」

――現実への対処ということだろうが、それでは「外国人研修・実習生に単純労働をさせている」ことを、政府も事実上認めたように読めてしまうが……。その改正で事態は改善されたのだろうか?

「いいえ、残念ながら。同年10月に来日した中国人技能実習生に対して本事件が発生していることからも分かるように、受入先と技能実習生との支配従属的な関係等から生じる問題は後を絶ちません」

――そういった背景・経緯を考えると、今回の判決は当然?

「その通りですね。妊娠禁止の規定を含む契約が公序良俗に反することは明らかで、本判決は、当然のことを認定したものです。

こういった技能実習生の処遇は、早急に改善する必要があります。さらに、目的と実態が乖離した本制度を抜本的に見直し、外国人労働者の受け入れについて正面からの議論を行うことも必要でしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る