1156.jpg
最低賃金がアップすると「ゾンビ企業」や「低生産性の労働者」は淘汰されるのか?
2015年08月29日 10時50分

企業が従業員に支払う賃金の最低ラインとなる「最低賃金」について、厚労省の審議会は7月末、2015年度分は全国平均で18円値上げして、798円を目安にするよう厚労相に答申した。引き上げは労働者にとって歓迎すべきことのようにみえるが、ネット上では様々な意見が飛び交っている。

東京都議のおときた駿氏は、引き上げ支持派だ。最低賃金の引き上げによって、最低賃金ギリギリでなければ従業員を雇えず、経営を維持できない「ゾンビ企業」を淘汰できると主張する。ゾンビ企業がなくなれば、雇用が流動化して、世代間や性差などの格差が解消されるというのだ。

一方、雇用問題の論客として知られるコンサルタントの城繁幸氏は、引き上げで淘汰されるのは、経営の苦しい地方の零細企業で、地方衰退を招くと指摘。地方の雇用を支える零細企業が倒産すれば、従業員たちが職を求めて都市部に移り住むと予測している。

さらに、最低賃金が引き上げられれば、企業は「この金額に値しないような、生産性のない労働者は淘汰されろ」という考えになるため、弱者が切り捨てられるとみている。そこで城氏は、引き上げというよりも、むしろ最低賃金自体を撤廃して、低所得者向けの支援制度を充実させるべきだと主張している。

最低賃金の引き上げによって、企業や労働者、そして地方の淘汰が進むことになるのだろうか。山田長正弁護士に聞いた。

企業が従業員に支払う賃金の最低ラインとなる「最低賃金」について、厚労省の審議会は7月末、2015年度分は全国平均で18円値上げして、798円を目安にするよう厚労相に答申した。引き上げは労働者にとって歓迎すべきことのようにみえるが、ネット上では様々な意見が飛び交っている。

東京都議のおときた駿氏は、引き上げ支持派だ。最低賃金の引き上げによって、最低賃金ギリギリでなければ従業員を雇えず、経営を維持できない「ゾンビ企業」を淘汰できると主張する。ゾンビ企業がなくなれば、雇用が流動化して、世代間や性差などの格差が解消されるというのだ。

一方、雇用問題の論客として知られるコンサルタントの城繁幸氏は、引き上げで淘汰されるのは、経営の苦しい地方の零細企業で、地方衰退を招くと指摘。地方の雇用を支える零細企業が倒産すれば、従業員たちが職を求めて都市部に移り住むと予測している。

さらに、最低賃金が引き上げられれば、企業は「この金額に値しないような、生産性のない労働者は淘汰されろ」という考えになるため、弱者が切り捨てられるとみている。そこで城氏は、引き上げというよりも、むしろ最低賃金自体を撤廃して、低所得者向けの支援制度を充実させるべきだと主張している。

最低賃金の引き上げによって、企業や労働者、そして地方の淘汰が進むことになるのだろうか。山田長正弁護士に聞いた。

●日本では外部労働市場が不十分で、解雇も困難

「おときた氏は、『ゾンビ企業』の淘汰を進め、新興産業に労働者を集中すべきであると主張しています。『ゾンビ企業』の定義が明らかではありませんが、現在日本の企業の7割が赤字です。仮に、それら企業の多くが倒産してしまいますと、日本の経済自体が危うくなるでしょう。ですから、この意見は、現実的ではないように感じますね」

おときた氏は「雇用の流動化」が必要だからゾンビ企業が淘汰されるべきだと言っているが、どうだろうか。

「年功序列・終身雇用・正社員という特権を排除し、解雇を容易に認められるようにすることなどが必要だとも主張されているようです。個人的に『雇用の流動化』自体には、反対はしません。

しかし、そもそも日本では、転職をするためのいわゆる『外部労働市場』が整備されていません。また、解雇が困難であるという裁判実務の運用を踏まえると、実現は困難であるように思います」

では、城氏の主張についてはどうだろうか。

「たしかに地方の雇用機会が減ってしまう恐れはあるでしょう。ただし、最低賃金制度下では、全国的に賃金が底上げされるので、地方の最低賃金額は都市部よりも低くなる関係は残ります。ですから、減りこそすれ、地方の雇用機会は守られるでしょうね」

では、「低生産性の労働者が淘汰される」ことになるのだろうか。

「そもそも企業活動そのものが、本来は利益追求を目的としている以上、どの企業においても労働者の生産性が賃金を上回る必要があります。最低賃金が上昇すると、どの企業においても低生産性の労働者が解雇されるリスクは高まるでしょう。しかし、これは、あくまで、理論上の話です。

実際は、日本の裁判実務上、解雇は安易に認められていません。ですから、最低賃金引き上げが即解雇につながるという流れにはならないでしょう。また、最低賃金が上がることで、労働者の消費が増え、企業の売上増につながる面もありますから、この点でも、ただちに解雇のリスクが高まるとは言えないと思います」

山田弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る