「フードコートで、他人が座っていた椅子の匂いを嗅いでいる人を見かけました。これって犯罪なんでしょうか?」。そんな一風変わった法律相談が、弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者によると、その人物は客として普通に食事をしていたものの、ある異性客が席を立った直後、その席に移動。そして、残された椅子の座面に顔を近づけ、執拗に匂いを嗅いでいたといいます。
この様子を目撃した相談者は「本人が食事のついでに行った行為でも、他人からすれば不気味で不快。場合によっては犯罪にならないのか」と疑問を抱いたとのこと。
不快さはありますが、法的な問題はないのでしょうか? 寺林智栄弁護士に聞きました。
●法的な問題は? →「犯罪に該当する行為ではない」
──誰かが「被害にあった」と言えるものではないかもしれませんが、目撃者としては非常に不安や嫌悪感を抱いたようです。法的な問題はないのでしょうか?
公共の場で、異性客が座った後の椅子の匂いを嗅ぐのは、他人から見てとても不快なもので、性的な異常性をおぼえ不安を感じる人も少なくないことでしょう。
では、このような行為について法的な問題はあるのでしょうか?
まず刑事法上の問題ですが、犯罪に該当する行為ではありません。
確かに性的な異常性を感じさせるものではありますが、座っていた人自体に対して暴力を振るったり接触したりしているわけではないので痴漢には該当せず、迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪にはなり得ないでしょう。
しかし、度々このような行為が度々繰り返され、それにより周りの客が不快な思いをして、フードコートに近づきたがらなくなるような状況であれば、軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」にはあたる可能性もあります。
●店が注意しても繰り返されれば、損害賠償請求が可能
──民事上の責任はないのでしょうか? 迷惑行為の目撃者が、その後、フードコートを訪れなくなるなどの影響もありそうです。
民事法上も、やはり原則的には違法なものとはいえないでしょう。
座っていた人に対して身体的精神的な苦痛を負わせているわけではありませんし、椅子の損壊にも当たらないため、店側に損害が発生しているともいえません。
ただし、例えば、注意をされているにもかかわらず、繰り返し同じ店で同様の行為を行ったために、他の客に不安を与えて利用者が減少したようなケースでは、店側がその人に対して営業上の損害を不法行為に基づいて賠償請求することが可能になりえます。
椅子の匂いを嗅ぐのは、刑事法上も民事法上も一般的には違法になりませんが、周りの人にとっては薄気味が悪い迷惑行為であることは間違いありません。場合によっては、店側に通報され、注意されたり、防犯上の観点から出禁にされる可能性もあります。
公共の場においては、自身の欲望に任せた振る舞いが他人にどのように受け取られるのか予め考えた上で行動することが必要といえます。