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「こんなスパルタ社員研修はいやだ!」 参加を拒否したらクビになる?
2013年06月03日 19時05分

今春就職した新入社員の中には、「研修期間」の真っ只中という人もいるかもしれない。研修の内容や期間は、企業や業種によって異なるが、泊まり込みの合宿というのも珍しくはない。

近ごろは、自衛隊の訓練を新入社員研修に取り入れる企業が増えているという。背景には、厳しい訓練を通して社会人としての意識を身につけてほしいという企業側の思惑があるのかもしれない。

ところが、このようなスパルタ研修を苦痛と感じる新人社員もいるようで、インターネット掲示板のあるスレッドには「泊まりこみ研修終了まであと14日 脱走したい」という書き込みがあった。また、同スレッドには「会社を辞めたい」といったコメントが多数寄せられている。

だが、就職活動を頑張って念願の社会人になっても、最初の研修が嫌で会社を辞めてしまっては、もったいないだろう。では、新入社員が「厳しすぎて辛い」という理由で、研修への参加を拒否した場合はどうなるのだろうか。クビになっても文句は言えないのだろうか。労働問題に詳しい古金千明弁護士に聞いた。

●正当な理由なく研修参加を拒否すると「懲戒」の対象となることもある

「入社後に会社から業務命令として研修が命じられた場合に、正当な理由なく参加を拒否すると、『業務命令違反』として、懲戒の対象となります」

古金弁護士はこのようにズバリ述べる。「厳しすぎて辛い」という抽象的な理由だけでは、不参加の理由として、正当な理由として認められないということだ。そのため、「研修への参加を拒否すると、懲戒の対象になると考えられます」という。

では、会社による業務命令なら、何が何でも従わなければならないのか?

「ただし、会社による業務命令といっても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない内容であるときは、業務命令権の濫用として違法となり、業務命令としてなされた研修に応じる義務がない場合もあります。

たとえば、体調不良で医者から安静を命じられているときに、肉体的に著しく負荷のかかる研修への参加を命じられた場合や、研修の内容自体が従業員の個人の尊厳を貶めるようなパワーハラスメントである場合には、研修への参加を拒否したとしても懲戒の対象とはならないケースが多いと思われます」

●会社による「懲戒権の行使」にも限界がある

もし新入社員が研修への参加を拒否して、懲戒の対象となった場合でも、会社がすぐにクビしてよいというわけではない。古金弁護士は次のように説明する。

「会社による懲戒権の行使についても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない内容であるときは、懲戒権の濫用として、違法となる場合があります。

具体的には、労働者の『非違行為』の内容や、その非違行為と懲戒処分の内容との均衡、懲戒処分にあたって労働者の弁明の機会が付与されたか否か等により、総合的に判断されることになります」

業務命令としての研修に参加しなかった場合は、「原則として懲戒の対象とはなります」という。しかし、懲戒処分といっても、戒告から解雇までいろいろなレベルがある。

「たとえば、研修に1回欠席した程度の場合は、その労働者を解雇しなければ企業秩序が維持できない、とまではいえません。したがって、業務命令としての研修に1回欠席したことを理由に『解雇』することは、労働者の非違行為に比べて懲戒処分の内容が重過ぎるといえます。

注意・指導の対象にはなると思いますが、懲戒処分となるとしても、戒告・譴責程度に留まるべきものと思われます」

つまり、新入社員が最初の研修を拒んだからといって「即刻解雇」というのは不当だろうということだ。

「ただし、会社の業務に不可欠な研修について、業務命令として参加を命じられたにもかかわらず、何度も欠席を繰り返し、会社から何度も戒告・譴責(けんせき)処分を受けても改まらないような場合には、懲戒処分として解雇が有効となる場合もありますので、注意が必要です」

●銀行員が自衛隊の訓練を受けることは「業務に不可欠な研修」か?

それにしても、たとえば、銀行の新入社員が、研修として自衛隊の体験入隊をすることが、「業務に不可欠な研修」と言えるのだろうか。この疑問について、古金弁護士は次のように話している。

「研修の内容しだいではないでしょうか。たとえば、もし戦闘訓練が主たるものだとすると、警備員等でない限り業務との関連性がなさそうです。他方、集団行動や規律維持という効果が主たる目的であれば業務と関連するようにも思えます。

あとは、訓練内容や労働者の健康・体力状態にもよるでしょう。たとえば、女性の事務職で、かつ、体力のない人に、20キログラムの装備を背負わせて20キロメートルを休みなしで行軍することを求めるような訓練内容だとしたら、参加を拒否したとしても懲戒の対象とすることは、懲戒権の濫用と評価される可能性が高いと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

今春就職した新入社員の中には、「研修期間」の真っ只中という人もいるかもしれない。研修の内容や期間は、企業や業種によって異なるが、泊まり込みの合宿というのも珍しくはない。

近ごろは、自衛隊の訓練を新入社員研修に取り入れる企業が増えているという。背景には、厳しい訓練を通して社会人としての意識を身につけてほしいという企業側の思惑があるのかもしれない。

ところが、このようなスパルタ研修を苦痛と感じる新人社員もいるようで、インターネット掲示板のあるスレッドには「泊まりこみ研修終了まであと14日 脱走したい」という書き込みがあった。また、同スレッドには「会社を辞めたい」といったコメントが多数寄せられている。

だが、就職活動を頑張って念願の社会人になっても、最初の研修が嫌で会社を辞めてしまっては、もったいないだろう。では、新入社員が「厳しすぎて辛い」という理由で、研修への参加を拒否した場合はどうなるのだろうか。クビになっても文句は言えないのだろうか。労働問題に詳しい古金千明弁護士に聞いた。

●正当な理由なく研修参加を拒否すると「懲戒」の対象となることもある

「入社後に会社から業務命令として研修が命じられた場合に、正当な理由なく参加を拒否すると、『業務命令違反』として、懲戒の対象となります」

古金弁護士はこのようにズバリ述べる。「厳しすぎて辛い」という抽象的な理由だけでは、不参加の理由として、正当な理由として認められないということだ。そのため、「研修への参加を拒否すると、懲戒の対象になると考えられます」という。

では、会社による業務命令なら、何が何でも従わなければならないのか?

「ただし、会社による業務命令といっても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない内容であるときは、業務命令権の濫用として違法となり、業務命令としてなされた研修に応じる義務がない場合もあります。

たとえば、体調不良で医者から安静を命じられているときに、肉体的に著しく負荷のかかる研修への参加を命じられた場合や、研修の内容自体が従業員の個人の尊厳を貶めるようなパワーハラスメントである場合には、研修への参加を拒否したとしても懲戒の対象とはならないケースが多いと思われます」

●会社による「懲戒権の行使」にも限界がある

もし新入社員が研修への参加を拒否して、懲戒の対象となった場合でも、会社がすぐにクビしてよいというわけではない。古金弁護士は次のように説明する。

「会社による懲戒権の行使についても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない内容であるときは、懲戒権の濫用として、違法となる場合があります。

具体的には、労働者の『非違行為』の内容や、その非違行為と懲戒処分の内容との均衡、懲戒処分にあたって労働者の弁明の機会が付与されたか否か等により、総合的に判断されることになります」

業務命令としての研修に参加しなかった場合は、「原則として懲戒の対象とはなります」という。しかし、懲戒処分といっても、戒告から解雇までいろいろなレベルがある。

「たとえば、研修に1回欠席した程度の場合は、その労働者を解雇しなければ企業秩序が維持できない、とまではいえません。したがって、業務命令としての研修に1回欠席したことを理由に『解雇』することは、労働者の非違行為に比べて懲戒処分の内容が重過ぎるといえます。

注意・指導の対象にはなると思いますが、懲戒処分となるとしても、戒告・譴責程度に留まるべきものと思われます」

つまり、新入社員が最初の研修を拒んだからといって「即刻解雇」というのは不当だろうということだ。

「ただし、会社の業務に不可欠な研修について、業務命令として参加を命じられたにもかかわらず、何度も欠席を繰り返し、会社から何度も戒告・譴責(けんせき)処分を受けても改まらないような場合には、懲戒処分として解雇が有効となる場合もありますので、注意が必要です」

●銀行員が自衛隊の訓練を受けることは「業務に不可欠な研修」か?

それにしても、たとえば、銀行の新入社員が、研修として自衛隊の体験入隊をすることが、「業務に不可欠な研修」と言えるのだろうか。この疑問について、古金弁護士は次のように話している。

「研修の内容しだいではないでしょうか。たとえば、もし戦闘訓練が主たるものだとすると、警備員等でない限り業務との関連性がなさそうです。他方、集団行動や規律維持という効果が主たる目的であれば業務と関連するようにも思えます。

あとは、訓練内容や労働者の健康・体力状態にもよるでしょう。たとえば、女性の事務職で、かつ、体力のない人に、20キログラムの装備を背負わせて20キロメートルを休みなしで行軍することを求めるような訓練内容だとしたら、参加を拒否したとしても懲戒の対象とすることは、懲戒権の濫用と評価される可能性が高いと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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