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「遺体写真見たくない」で辞退容認 「裁判員裁判」の根幹が揺らいでいる?
2013年09月01日 11時15分

裁判員の精神的負担をめぐる問題で、愛媛県の松山地裁が、傷害致死事件の公判で「遺体の写真」を提示する予定があると裁判員候補者に説明したところ、2人が不安を訴えたため、辞退が認められていたことが明らかになった。

裁判員の精神的負担については、元裁判員の女性が今年5月、事件被害者の遺体写真を見たことで急性ストレス障害になったとして国賠訴訟を起こし、注目を集めた。7月には東京地裁が、裁判員選任手続きの際に遺体写真などの証拠について予告し、候補者が不安を訴えた場合には辞退を柔軟に認めることを申し合わせていた。

この東京地裁の運用方針を参考にするよう、最高裁が各地裁に通知したため、全国でも同様の運用が始まるとみられていた。ネットでは「これでは誰も裁判員をやらなくなる」といった声も出ているが……。裁判員制度に疑問符を投げかけている猪野亨弁護士に意見を聞いた。

●裁判員になる人が偏り、制度の根幹が崩れる

「現在の裁判員制度では、裁判員になることは国民の義務とされています。刑事裁判の中で示される種々の書証を見ることも『当然の前提』です。もちろん書証の中には、遺体の写真などショッキングな内容も含まれています。

しかし現実に、裁判員が急性ストレス障害を発症したということになると、今後は単純に『義務だからやれ』『ちゃんと証拠を見ろ』というわけにはいかなくなるでしょう」

――生々しい写真を直接見なくても済むようにするなど、負担軽減策も話し合われているようだが?

「だからといって白黒やイラストなどにしてしまえば、『証拠を見ないで裁判の評議、評決に関与する』ということになってしまいます。それは刑事裁判にとって、非常に大きな問題でしょう」

――そこで「見たくない人には辞退を認める」という話になってきたのでは?

「ところが、そもそも裁判員の辞退は、以前からかなり広く認める運用がなされています。2012年度は事前辞退の57.3%が認められています。

裁判員制度は広く無作為に裁判員を抽出し、一般人の意見をくみ取ることに目的があったのですから、こんなに広く辞退を認めてしまえば、制度の根幹を崩すことになります」

――裁判員に偏りが生じるということ?

「そうですね。積極的に裁判員になりたいという人は、実はかなり限られています。最高裁が2013年1月に行った意識調査では、『参加したい』という人は4.7%、『参加しても良い』は10.2%にしか過ぎませんでした。

逆に裁判員をやりたくないという声は圧倒的多数で、41.9%が『あまり参加したくない』、同じく41.9%が『義務であっても参加したくない』と回答しています」

――つまりは?

「積極的に裁判員になりたい層は、そもそも一部に過ぎないということです。大多数が辞退し、そういう人たちばかりが……たとえば『犯罪現場の写真を見たい人(見ても構わない人)』ばかりが裁判員になるという制度で、一般人の意見をくみ取るという目的は達成できるのでしょうか」

――裁判員になりたくないという人がこれほど多いとは……。なぜこんなことに?

「刑事裁判に裁判員を関与させることに無理があったばかりでなく、国民的な合意もないまま、この制度を強引に始めたことが、このような矛盾を引き起こしたと言えます。

このままでは、刑事訴訟手続きの公平性に対する信頼を失墜させていると言わざるを得えないでしょう」

確かに、意識調査に対して4割を超える人々が「義務であっても参加したくない」と回答するようでは、制度はピンチと言えるだろう。運用5年目に入った裁判員制度だが、乗り越えなくてはならない課題はまだまだ数多く残っているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

裁判員の精神的負担をめぐる問題で、愛媛県の松山地裁が、傷害致死事件の公判で「遺体の写真」を提示する予定があると裁判員候補者に説明したところ、2人が不安を訴えたため、辞退が認められていたことが明らかになった。

裁判員の精神的負担については、元裁判員の女性が今年5月、事件被害者の遺体写真を見たことで急性ストレス障害になったとして国賠訴訟を起こし、注目を集めた。7月には東京地裁が、裁判員選任手続きの際に遺体写真などの証拠について予告し、候補者が不安を訴えた場合には辞退を柔軟に認めることを申し合わせていた。

この東京地裁の運用方針を参考にするよう、最高裁が各地裁に通知したため、全国でも同様の運用が始まるとみられていた。ネットでは「これでは誰も裁判員をやらなくなる」といった声も出ているが……。裁判員制度に疑問符を投げかけている猪野亨弁護士に意見を聞いた。

●裁判員になる人が偏り、制度の根幹が崩れる

「現在の裁判員制度では、裁判員になることは国民の義務とされています。刑事裁判の中で示される種々の書証を見ることも『当然の前提』です。もちろん書証の中には、遺体の写真などショッキングな内容も含まれています。

しかし現実に、裁判員が急性ストレス障害を発症したということになると、今後は単純に『義務だからやれ』『ちゃんと証拠を見ろ』というわけにはいかなくなるでしょう」

――生々しい写真を直接見なくても済むようにするなど、負担軽減策も話し合われているようだが?

「だからといって白黒やイラストなどにしてしまえば、『証拠を見ないで裁判の評議、評決に関与する』ということになってしまいます。それは刑事裁判にとって、非常に大きな問題でしょう」

――そこで「見たくない人には辞退を認める」という話になってきたのでは?

「ところが、そもそも裁判員の辞退は、以前からかなり広く認める運用がなされています。2012年度は事前辞退の57.3%が認められています。

裁判員制度は広く無作為に裁判員を抽出し、一般人の意見をくみ取ることに目的があったのですから、こんなに広く辞退を認めてしまえば、制度の根幹を崩すことになります」

――裁判員に偏りが生じるということ?

「そうですね。積極的に裁判員になりたいという人は、実はかなり限られています。最高裁が2013年1月に行った意識調査では、『参加したい』という人は4.7%、『参加しても良い』は10.2%にしか過ぎませんでした。

逆に裁判員をやりたくないという声は圧倒的多数で、41.9%が『あまり参加したくない』、同じく41.9%が『義務であっても参加したくない』と回答しています」

――つまりは?

「積極的に裁判員になりたい層は、そもそも一部に過ぎないということです。大多数が辞退し、そういう人たちばかりが……たとえば『犯罪現場の写真を見たい人(見ても構わない人)』ばかりが裁判員になるという制度で、一般人の意見をくみ取るという目的は達成できるのでしょうか」

――裁判員になりたくないという人がこれほど多いとは……。なぜこんなことに?

「刑事裁判に裁判員を関与させることに無理があったばかりでなく、国民的な合意もないまま、この制度を強引に始めたことが、このような矛盾を引き起こしたと言えます。

このままでは、刑事訴訟手続きの公平性に対する信頼を失墜させていると言わざるを得えないでしょう」

確かに、意識調査に対して4割を超える人々が「義務であっても参加したくない」と回答するようでは、制度はピンチと言えるだろう。運用5年目に入った裁判員制度だが、乗り越えなくてはならない課題はまだまだ数多く残っているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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