自分の性的な画像や動画を送ってしまい、それをネタに言いなりになるよう脅されたり、金銭を要求されたりするという被害が若者を中心に広がっている。
性的搾取や性暴力の被害者支援をおこなうNPO法人ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)によると、2025年の4月から7月16日までのわずか3カ月あまりで、すでに1066人から新規の被害相談が寄せられたという。
ぱっぷすの金尻カズナ理事長によると、2025年6月だけで、18歳未満の児童・生徒からの被害相談は71件にのぼり、同月の最年少の相談者は12歳だった(これまでの最年少の相談者は小学5年生)。
性的脅迫は、女性がターゲットにされるイメージが強いが、被害者の約7割が男性で、加害者の目的は金銭を奪い取ることだという。
学校が長期休暇に入るこの時期は、特に被害が拡大するおそれがあることから、ぱっぷすは7月17日、都内で緊急記者会見を開き、警鐘を鳴らした。(ライター・玖保樹鈴)
●男生も被害「ネットで知り合った女性が…」
「性的な」を意味する「セックス」(SEX)と「脅迫」を指す「エクストーション」(Extortion)を合わせた造語、「セクストーション」(性的な脅迫)と呼ばれている。
男性はどのようにセクストーションの被害に遭うのか。金尻さんは記者会見で、ある男子学生のケースを挙げた。「ネットで知り合った女性」による被害に遭ったという。
この男子学生は英語を習っていることをきっかけに、海外の人たちとコミュニケーションをしたいと思い、言語交換アプリを介して知り合った女性とInstagramでビデオ通話をすることになった。
その中で身体を褒められ、相手も脱ぎ始めたため、自分も服を脱いで自慰行為を始めてしまった。すると、「あなたの映像を録画した。フォロワーにばらまかれたくなかったらギフトカードで5万円を振り込め」と脅された。
コンビニまで向かいながら、悩み抜いた末にぱっぷすに連絡してきたという。
●被害者を追い込む「社会の思い込み」
これまでも、女性がSNSで知り合った相手に性的画像を送り、脅迫されるというケースは複数報告されている。
一方で、金尻さんによると、男性の場合、「加害者になることはあっても被害者になるはずがない」とか「男性の性的な写真や映像が脅しの材料になるはずがない」という社会的な思い込みがあり、被害に遭う認識を持てない人は少なくないという。
そして、予期せぬ被害に遭ったことでパニックになり、相手から「あと何分で振り込まないと画像をばらまく」などと決断を迫られ、「これは勉強代だ」と自分に言い聞かせて支払ってしまう。
しかし、この行動こそ、加害者の巧妙な罠だ。一度支払うと要求はエスカレートしていくが、画像が削除されることはない。
また、「20万円支払え」という要求に対して「無理だけど2万円なら」などと交渉に応じてしまうと、「その金額で画像を削除してやる」と言われることもある。
だが、その後も繰り返し金銭を要求されて、結果的に当初の提示額より多く支払わされてしまうケースが圧倒的だ。
●「コンコルド効果」と唯一の対処法
被害者が言いなりになってしまう背景には、「コンコルド効果」と呼ばれる認知バイアスが働いていると、金尻さんは指摘する。
かつて英仏が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」は、開発段階から採算が取れないとわかっていながら、それまでの莫大な投資を惜しんで中止することができなかったとされる。
これと同様に「これまでの負担を無駄にしたくない」という気持ちと「支払いをストップすると画像が拡散されてしまうのではないか」という恐怖から、相手の要求を断ち切れなくなってしまうそうだ。
このような手口から逃れるためには「一刻も早く、加害者との連絡を断つこと」が不可欠だという。
「まずは事実をシンプルに考えることです。お金を払えば『見込み客』になり、むしろ状況は悪化します。お金を支払っても画像は消えません。
電話番号の履歴から、犯人グループは西アフリカや東南アジアにいることが多く、国内法が適用されません。金銭を要求するセクストーションは、まさに特殊詐欺と言えます」(金尻さん)
記者会見に同席したNPO法人ヒューマンライツ・ナウ副理事長の伊藤和子弁護士は、海外からの犯行に「壁」があり、法整備が追いついていないと指摘した。
●子どもの"自衛"は不可能、大人に求められる役割
「おかしいと思ったら近寄らないように」
子どもたちにそう"自衛"を求める声がある。しかし、加害者集団は知見を積み重ね、大人さえもターゲットにして成果をあげている。百戦錬磨の相手に対し、子どもだけで身を守るのは不可能に近い。
だからこそ、金尻さんは「被害に遭ったら1人で抱え込まないで」とうったえる。
被害に遭った子どもは「自分から性的画像を送ってしまったから、親に相談したら怒られる」と考えて、自分を責めてしまいがちだ。金尻さんは、周りの大人がそのことを理解して、ケアをしてほしいと望んでいる。
「『自分は被害に遭わない』と思っていても安全ではないことを認識してほしいです。セクストーションは犯罪だという認知を広げることで、加害者集団は逃げていくはず。決して許さない社会の空気を作ることが抑止につながると思います」(金尻さん)
「日本では、性的な教育が追い付いていないことも問題です。プライベートなパーツ(身体の部分)は大事なものだということや性的同意、一度(ネットに)画像を送ったらいつまでも残り続けるということなどを教育を通して伝える必要があります」(伊藤さん)