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努力報酬、副業歓迎ーーイケダハヤト流「21世紀の報酬スタイル」弁護士はどう見る?
2015年08月09日 10時35分

「まだ昭和の賃金体系で働いてるの?」。有名ブロガーのイケダハヤトさんが、自身のブログで、こんな刺激的なタイトルを使って、自身が考える理想の賃金体系を「21世紀の報酬スタイル」として披露した。自身の事務所で採用しているスタイルがベースになっているという。

ブログによると、「21世紀の報酬スタイル」は、ライフステージや状況に合わせて最低限暮らしていけるだけの「生活保障賃金」を支給したうえで、成果と努力の双方を考慮した「フレキシブルな成果・努力報酬」を支払う。さらに、「働き過ぎを防ぐ労働時間規制」を導入して、過労による労働効率の低下を防止。事務所の経営が成り立たなくなってもやっていけるように、「副業を大歓迎」し、本人のレベルアップにもつなげる狙いだ。

イケダさん独自の考え方だが、この「21世紀の報酬スタイル」に参考になる点はあるのだろうか。また、多くの企業で実現する可能性はあるのだろうか。企業労働法にくわしい倉重公太朗弁護士に聞いた。

「まだ昭和の賃金体系で働いてるの?」。有名ブロガーのイケダハヤトさんが、自身のブログで、こんな刺激的なタイトルを使って、自身が考える理想の賃金体系を「21世紀の報酬スタイル」として披露した。自身の事務所で採用しているスタイルがベースになっているという。

ブログによると、「21世紀の報酬スタイル」は、ライフステージや状況に合わせて最低限暮らしていけるだけの「生活保障賃金」を支給したうえで、成果と努力の双方を考慮した「フレキシブルな成果・努力報酬」を支払う。さらに、「働き過ぎを防ぐ労働時間規制」を導入して、過労による労働効率の低下を防止。事務所の経営が成り立たなくなってもやっていけるように、「副業を大歓迎」し、本人のレベルアップにもつなげる狙いだ。

イケダさん独自の考え方だが、この「21世紀の報酬スタイル」に参考になる点はあるのだろうか。また、多くの企業で実現する可能性はあるのだろうか。企業労働法にくわしい倉重公太朗弁護士に聞いた。

●意図は十分理解できるし、理想的だが・・・

「イケダハヤト氏の狙いとする報酬スタイルは、被雇用者のライフステージや状況に合わせて、最低限、支払う金額を決めています。つまり、一定額はある程度、病気になっても保証する一方、本人の努力も加味し、成果に応じて報酬を上乗せするというものです。さらに、稼ぎたければ副業もかまわない、というもののようです。

終身雇用・年功序列といういわゆる日本型賃金体系の限界が叫ばれる中、イケダ氏の意図するところは十分理解できるし、そのような運用が上手くいけば、理想的であるとさえ言えるでしょう」

この理想は、一般の企業で現実のものになる可能性はあるのだろうか。

「残念ながら、一般の企業が導入するのは、少なくとも現行の労働法の下では、リスクが大きすぎると言わざるをえません。

第一に、イケダ氏のように、副業完全OK、場所・時間も拘束せず、仕事を受ける・受けないの自由もある、ということができる企業は少ないでしょう。おそらくイケダ氏の事務所では、アシスタントとの契約は、労働契約ではなく、業務委託の形式を取っているのではないでしょうか。一般の企業で導入した場合、ある程度の業務指示をせざるを得ず、業務委託の域を超えて指揮命令を行った場合は、『偽装請負』とされるリスクがあります。

実質は、雇用契約の関係なのに、それを業務委託という形で偽装していると疑われてしまうのです。雇用保険・労災保険・年金などの社会保障も、どのような形式になっているのかが気になるところですね」

●現行労働法の下では「多大なリスク」あり

イケダ氏の提唱する「生活保障賃金」についてはどう考えればいいだろうか。

「イケダ氏は、アシスタントの必要な分を『10万』『7万』『15万』など例示して、これらを『生活保障賃金』として支払うということを書いています。適正な業務委託であれば構わないのですが、仮に労働契約であると判断される場合、労働時間によっては、最低賃金法違反が問題となります。

つまり、各都道府県や業種別に定められた最低時給というものがあり、これを下回ると違法になるのです。ちなみに、高知県の2014年度最低賃金は時給677円。2015年度改定においては693円になる見込みです。

また、労働契約であるならば、労働基準法の適用があります。労基法上は、成果が上がらなくとも、1日8時間・週40時間を超えて働いたり、休日・深夜に働いた場合には割増賃金を払わなければなりませんので、残業を行った場合の各種割増賃金についても懸念されます。これらが支払われていない場合は、労働基準法違反であるとの主張を受けるでしょう」

成果しだいで報酬が上がるのであれば、魅力的ではないのだろうか。

「この成果報酬査定も、一般企業で運用するには、いろいろと問題があります。イケダ氏によれば、努力や成果などを主観的に判断して決めるとのことです。しかし、これは氏のように、アシスタントから『ちゃんと見て貰えている』という信頼関係があり、本人が納得している場合でないと成り立たないでしょう。

もし、一般の企業で同じようにやろうとした場合、そもそも、評価基準は何なのか、評価者によって結論が変わらないか、好き嫌いで評価をしていないかといった心配があります。労使関係が悪化すれば、被雇用者から、成果報酬の査定が違法で『人事権の濫用だ』と訴えられるケースが想定されます。

成果報酬制度については、

(1)成果基準が公開されており、その内容が合理的であること

(2)評価方法が公平であること

(3)不服申立手続を備えていること

(4)減額幅の制限があること

といった点について、裁判で問われるケースが多いのが現状です。あまりに恣意的な制度であると『人事権の濫用』と言われるのです。イケダ氏の制度を一般企業が導入することは、現行労働法の下においては、多大なるリスクがつきまとうと言わざるをえません」

●「時給に縛られた働き方をすべきではない」の理念には共感

理想はあくまで理想で終わるということだろうか。

「繰り返しですが、イケダ氏の理念を批判するつもりは一切ありません。むしろ、『時給に縛られた働き方をすべきでない』というイケダ氏の提唱する理念は、個人的にはうなずけます。

終身雇用・年功序列型の日本的賃金構造が破綻しつつあるのもまた事実です。今国会の成立は断念したようですが、労働基準法改正により、時間に縛られず、成果によって報酬を支払う働き方(高度プロフェッショナル制度)の導入も控えており、旧来的な賃金体系からの脱却が検討されはじめています。

労働者の生活の安定と成果に併せた報酬支払いの方法を、どのように導入していくのか。今後10年・20年先を見据えた日本の労働政策における課題でしょうね。長時間労働や低賃金酷使の予防など、ブラック企業の規制をしつつ、労働生産性を上げるにはどうしたらよいか、検討すべきでしょう」

倉重弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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