14763.jpg
無人島のシカに蹴られてケガ! なぜ福山市は「賠償金」を払ったのか?
2013年08月12日 17時09分

無人島でシカに蹴られてケガをした男性に対して、広島県福山市が賠償金を支払ったというニュースが話題になった。一読して「なぜ?」という疑問が浮かぶこのニュース。いったいどういうことなのだろうか。

中国新聞によると、事故が起きたのは昨年8月のこと。福山市に属する瀬戸内海の無人島で、市内の男性がシカに蹴られて、ろっ骨を折った。福山市は、賠償金として約16万円を男性に支払ったことを、今年5月になって明らかにした。

シカは1980年代に、市が繁殖調査などを目的として数匹を放して以来、棲みついているという。いまでも月1回、市がエサをやっているというが……。はたして今回、自治体にはどんな責任があるとされ、どんな根拠で賠償金を支払うことになったのだろうか。中田憲悟弁護士に聞いてみた。

●市が「管理」するシカが人を蹴ったら、国家賠償法の問題となる

シカが人を蹴ったというこの事件、一体どんな法律が問題となってくるのだろうか?

「今回責任が問題となっているのは、福山市という地方公共団体ですね。この場合、国家賠償法1条にもとづく損害賠償責任が問題となります。国家賠償法1条とは、公務員が職務を行う際に故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる、という規定です。

動物であるシカが『管理』されていて、『管理』に従事する福山市の公務員に『過失』、つまり『注意義務違反』があるとされれば、福山市が賠償責任を負うことになります」

なるほど、たとえシカのしたことでも、市の職員がシカを「管理」をしているならば、市の責任を問えるわけだ。では、この事件のシカは「管理」されていたのか?

「シカも、人間が接近してくれば蹴ったり咬んだりして、危害を及ぼす危険のある動物といえます。そして、本件の場合は、福山市が繁殖調査などを目的として、シカを無人島に放し、エサをやっていたわけです。このような事情をみると、担当の職員はシカを『管理』する者といえそうです。さらに管理をする上で通常払うべき注意を果たしていなかったということが立証されれば、『過失』ありとして、福山市の賠償責任が認められることになる、そのような事態を懸念して、賠償金の支払いがなされたのだと思います」

●動物管理の「過失」の有無が争点となる

だが、もしこれが裁判に持ち込まれた場合はどうなるのだろう。問題になるのは『過失』、すなわち『注意義務違反』の有無だろう。

「シカに関する前例はなかなか見当たりませんが、犬に関して刑事責任(刑法の重過失傷害罪)が問われたケースで、福岡高裁が出した判決が参考になると思います。秋田犬を自宅の庭で飼っており、過去に訪問者に咬みついてケガをさせたことがあるケースでした。

この場合、人が容易に庭に入れないようにするか、庭に危険な犬がいるので注意すべき旨、張り紙をするなどして、庭に赴こうとする者に対して犬の存在を知らせ、不用意に庭に入らないようにする『注意義務』があるとされました。

今回のケースでも、福山市は、島に訪問する者がシカに接触することのないように柵を設置したり、『シカに注意!』という立て看板を目に付くところに設置して注意を呼びかけるような措置をしておかなければ、通常果たすべき『注意義務』を果たしていなかった、つまり、『過失』があるとして、管理責任を問われることになる可能性が高いと判断されるのではないかと思います」

危険のある動物を飼ったり管理したりする際には、人が容易に動物に近づけないようにするか、張り紙や看板で、動物に近づかないように注意を喚起する必要があるわけだ。

今回は市の責任が問われたケースだが、一般人や民間企業が「管理」している動物だった場合はどうか?

「この場合は、民法718条が適用されます。民法718条は、動物を事実上管理する者は、その占有している動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うとしています」

この民法718条には、「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」という但し書きがある。つまり、ここまで検討してきた『過失』や『注意義務違反』がないことを管理者側で立証しない限り、損害賠償に応じなければならないという規定になっている。動物を庭で放し飼いにしたりする場合は、十分な安全対策を講じる必要がありそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

無人島でシカに蹴られてケガをした男性に対して、広島県福山市が賠償金を支払ったというニュースが話題になった。一読して「なぜ?」という疑問が浮かぶこのニュース。いったいどういうことなのだろうか。

中国新聞によると、事故が起きたのは昨年8月のこと。福山市に属する瀬戸内海の無人島で、市内の男性がシカに蹴られて、ろっ骨を折った。福山市は、賠償金として約16万円を男性に支払ったことを、今年5月になって明らかにした。

シカは1980年代に、市が繁殖調査などを目的として数匹を放して以来、棲みついているという。いまでも月1回、市がエサをやっているというが……。はたして今回、自治体にはどんな責任があるとされ、どんな根拠で賠償金を支払うことになったのだろうか。中田憲悟弁護士に聞いてみた。

●市が「管理」するシカが人を蹴ったら、国家賠償法の問題となる

シカが人を蹴ったというこの事件、一体どんな法律が問題となってくるのだろうか?

「今回責任が問題となっているのは、福山市という地方公共団体ですね。この場合、国家賠償法1条にもとづく損害賠償責任が問題となります。国家賠償法1条とは、公務員が職務を行う際に故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる、という規定です。

動物であるシカが『管理』されていて、『管理』に従事する福山市の公務員に『過失』、つまり『注意義務違反』があるとされれば、福山市が賠償責任を負うことになります」

なるほど、たとえシカのしたことでも、市の職員がシカを「管理」をしているならば、市の責任を問えるわけだ。では、この事件のシカは「管理」されていたのか?

「シカも、人間が接近してくれば蹴ったり咬んだりして、危害を及ぼす危険のある動物といえます。そして、本件の場合は、福山市が繁殖調査などを目的として、シカを無人島に放し、エサをやっていたわけです。このような事情をみると、担当の職員はシカを『管理』する者といえそうです。さらに管理をする上で通常払うべき注意を果たしていなかったということが立証されれば、『過失』ありとして、福山市の賠償責任が認められることになる、そのような事態を懸念して、賠償金の支払いがなされたのだと思います」

●動物管理の「過失」の有無が争点となる

だが、もしこれが裁判に持ち込まれた場合はどうなるのだろう。問題になるのは『過失』、すなわち『注意義務違反』の有無だろう。

「シカに関する前例はなかなか見当たりませんが、犬に関して刑事責任(刑法の重過失傷害罪)が問われたケースで、福岡高裁が出した判決が参考になると思います。秋田犬を自宅の庭で飼っており、過去に訪問者に咬みついてケガをさせたことがあるケースでした。

この場合、人が容易に庭に入れないようにするか、庭に危険な犬がいるので注意すべき旨、張り紙をするなどして、庭に赴こうとする者に対して犬の存在を知らせ、不用意に庭に入らないようにする『注意義務』があるとされました。

今回のケースでも、福山市は、島に訪問する者がシカに接触することのないように柵を設置したり、『シカに注意!』という立て看板を目に付くところに設置して注意を呼びかけるような措置をしておかなければ、通常果たすべき『注意義務』を果たしていなかった、つまり、『過失』があるとして、管理責任を問われることになる可能性が高いと判断されるのではないかと思います」

危険のある動物を飼ったり管理したりする際には、人が容易に動物に近づけないようにするか、張り紙や看板で、動物に近づかないように注意を喚起する必要があるわけだ。

今回は市の責任が問われたケースだが、一般人や民間企業が「管理」している動物だった場合はどうか?

「この場合は、民法718条が適用されます。民法718条は、動物を事実上管理する者は、その占有している動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うとしています」

この民法718条には、「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」という但し書きがある。つまり、ここまで検討してきた『過失』や『注意義務違反』がないことを管理者側で立証しない限り、損害賠償に応じなければならないという規定になっている。動物を庭で放し飼いにしたりする場合は、十分な安全対策を講じる必要がありそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る