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世界の離婚事情…日本は「子どもに対する責任」が曖昧【棚村教授に聞く・上】
2017年05月28日 09時22分

離婚後の親子関係をめぐる法や制度の見直しに注目が集まっています。 とくに日本では、諸外国と比べ、離婚時に子どもの立場が尊重されないことが指摘されています。親が離婚する家庭の子どもたちを守るためには、今後、法や制度をどのように修正していけばいいのでしょうか? 

離婚と親子関係をめぐる法制度の問題に詳しい、早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(家族法)に、お話を聞きました。(編集&ライター・大塚玲子)

離婚後の親子関係をめぐる法や制度の見直しに注目が集まっています。 とくに日本では、諸外国と比べ、離婚時に子どもの立場が尊重されないことが指摘されています。親が離婚する家庭の子どもたちを守るためには、今後、法や制度をどのように修正していけばいいのでしょうか? 

離婚と親子関係をめぐる法制度の問題に詳しい、早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(家族法)に、お話を聞きました。(編集&ライター・大塚玲子)

●日本は「単独親権」の原則

――いま、離婚と親子関係に関する日本の法制度は、どのようになっているんでしょうか?

日本の場合にはまず、離婚後に「単独親権の原則」というものをとっています(民法819条1項)。つまり、未成年のお子さんがいて離婚する場合には、父母のいずれか一方を親権者に決めなければなりません。だから、離婚後「どちらが親権者になるか」ということで、争いが生じやすい状況があるわけですね。

それから、一方が親権者になったのち、他方(離別居親)がお子さんと自由に交流ができるかというと、それも十分ではありません。

仲が悪くて別れるので、自分たちで話し合いをして面会交流の調整をできるケースは、たぶん3分の1程度しかないんじゃないかと思うんですね。そうすると、父母が顔を合わせなくてもお子さんが別居親と交流できるよう、誰かが間に入るような仕組みや支援体制が必要なんですけれど、そこがまだ十分でない。

——海外では、どのように定められているのでしょう?

海外は「共同の親権」や「共同の子育て」がベースです離婚した後も原則、結婚しているときと同様に、父母が共同で子育てをして、子どもとかかわっていきます。また、離婚した後、親子関係のルールをどういう内容で決めていくか、ということについて細かく規定があるわけです。

そこには、1970年代末から80年代にかけて国連で提案、採択された「子ども(児童)の権利条約」が影響しています。この条約は「大人とは別に子どもの人権というものがあり、子ども自身が権利の主体・主役として大事にされなければいけない」ということを、さまざまな形で定めたものです。いま196か国ぐらいが批准、加入していて、日本も1994年に批准しているんですけれど。

夫婦は別れれば他人に戻りますが、子どもにとってはお父さんお母さんであることに変わりない。だから共同で子育てをしていこう、ということになるわけです。ただし共同での子育てが難しい場合には、一方が単独で責任を負うような形もあります。

●日本は「親の子どもに対する責任」が極めて曖昧

――日本では子どものことより、別れた夫婦の争いばかりが目立ちますね。

日本では「親権」や「監護権」というものが、「お子さんに対して親が持っている権利」というふうに理解されているんですね。それは「大人の視点」です。家制度のもとでできた民法なので、構造や仕組み全体が「大人の子どもに対する支配権」になってしまっているので。

だから紛争解決の場面でも「大人の勝ち負け」みたいなことになってしまい、子どもの存在や立場、気持ちというものが、十分に尊重されないのです。

海外でいうところの「共同親権」はそういうものではなく、「共同の親責任」といったほうが近いでしょう。ドイツでは「親の配慮」とか「共同の配慮」という言い方ですし、イギリスも「ペアレンタル・リスポンシビリティー=親の責任」というふうに言っています。

日本は、養育費や子どもとの交流(面会交流)など、「親の子どもに対する責任」という部分のルールが、極めて曖昧です。そういう中でお子さんへの責任を果たすことは、困難なところがあります。

たとえば厚生労働省が5年に1度行っている「全国母子世帯等調査」(父子家庭も含むひとり親世帯対象)によると、離別親が子どもと会えているのは、母子家庭で28%ぐらい、父子家庭でも37%ぐらいで、養育費を受け取っている母子家庭は19.7%と、2割にも満たない状況です(2012年)。

その背景には「協議離婚制度」の問題もあります。離婚のとき父母は、今後お子さんとの交流をどうするか、学校はどうするのがいいか、病気になったらどうするとか、生活していくうえで出てくるいろいろな問題について、しっかりと話し合っておく必要があるのに、それがないまま「協議離婚」という形で、かなり無責任に別れていってしまいます。

子どもにとって親の離婚は、これまであった環境が、大きく悪い方向に変わっていく可能性があることです。貧困や格差にもつながりやすく、それをなんとかしていかなければいけないから、「子どもの養育」ということを、社会や国が本気で、総合的に支援していく必要があるのです。

その点、海外の法律は「子どもの権利」というものを中心として、大人にはむしろ重い責任を定めています。シングル(非婚)親も含め、「多様な家族」に対する社会的な支援があって、子どもたちを保護するための法や支援の仕組みもできているわけですよね。

そういったことが「共同親権」とか「共同監護」というふうに言われるんですけれども、理念としては、子どもの最善の利益や子供の権利を実現するための「共同養育責任」と言えます。

<後編「海外では主流『共同親権』、日本の『単独親権』なにが問題か【棚村教授に聞く・下】」https://www.bengo4.com/c_3/n_6140/に続く>

(弁護士ドットコムニュース)

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