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「戸籍はどうなんですかって話」SOGIハラで労災認定 トランス女性に上司が威圧的言動
2022年11月10日 19時13分

製造会社に勤めるトランスジェンダーの会社員(40代)が、上司から性的指向・性自認に関する差別や嫌がらせである「SOGIハラスメント」を受けて精神疾患を発症したことについて、神奈川県内の労働基準監督署が労災と認定した。原告側が11月10日、記者会見を開いて明らかにした。労災認定は6月30日付。

会社員は男性として出生したが、性自認は女性で、2017年にトランスジェンダーであることを社内で明かした。その後、直属の上司からハラスメント行為を受け、2018年12月に休職。2021年9月に復職し、労災申請をおこなった。

都内で開かれた会見で、会社員は自身がハラスメントを受けた頃に比べ、「性的マイノリティに対する見方や、扱い方、世間の風当たりは少しずつ良くなっていると思う」とする一方、まだ十分な配慮がなされていない現状や職場環境に対して、「一労働者、一市民として、声を上げ続けなければいけないかなと思っている」と話した。

製造会社に勤めるトランスジェンダーの会社員(40代)が、上司から性的指向・性自認に関する差別や嫌がらせである「SOGIハラスメント」を受けて精神疾患を発症したことについて、神奈川県内の労働基準監督署が労災と認定した。原告側が11月10日、記者会見を開いて明らかにした。労災認定は6月30日付。

会社員は男性として出生したが、性自認は女性で、2017年にトランスジェンダーであることを社内で明かした。その後、直属の上司からハラスメント行為を受け、2018年12月に休職。2021年9月に復職し、労災申請をおこなった。

都内で開かれた会見で、会社員は自身がハラスメントを受けた頃に比べ、「性的マイノリティに対する見方や、扱い方、世間の風当たりは少しずつ良くなっていると思う」とする一方、まだ十分な配慮がなされていない現状や職場環境に対して、「一労働者、一市民として、声を上げ続けなければいけないかなと思っている」と話した。

●上司が威圧的な言動「女として見ることなんかできない」

会社員の労災申請の代理人を務めた小野山静弁護士によると、会社員が2017年11月にトランスジェンダーであることを社内で明かしたのち、直属の上司が会社員に対し、ことあるごとに威圧的な言動をおこなってきたという。

会社員が「性自認は女性」であることについて説明して理解を求めていたにもかかわらず、会社員のことを「彼」と呼び、「彼」と呼ぶのはやめるよう伝えても執拗に呼び続けた。また、他の女性従業員は「さん」付けで呼ぶにもかかわらず、会社員に対してのみ「君」付けで呼んでいた。

さらに、「君のことを女として見ることなんかできない。法律上もそうだ。女として扱って欲しいなら、さっさと手術でもなんでも受ければいいだろう」、「君にやってもらうことはないよ」など、被災者の性自認を否定するだけでなく、被災者を業務から外すことを明確に通告してきたという。

上司からの性自認を侮辱する発言等を受けた会社員は、不眠に悩まされるなどの体調不良を感じるようになり、2018年12月から休職。その期間は、2021年9月の復職まで2年9カ月に及んだ。

●「戸籍はどうなの」「女性として見られたいなら細やかな心遣い必要」

会社員は復職した2021年9月、神奈川県内の労基署に労災を申請した。労基署は2022年6月30日、SOGIハラを原因とする精神疾患は労災であると認定した。

労基署は、「戸籍実際はどうなんですかっていう話で。性別変更できるんだから、できてから、それは言いなさい」、「女性らしいと見られたいんであれば、やっぱりそういう細やかな、心遣いっていうのも、必要なんじゃないか」等の発言が上司によるものだと認定。

また、上司が会社員を「彼」と呼んだり、複数回にわたって「君」付けで呼んだことも認定した。

労基署は、カミングアウトした会社員を女性として扱うよう、会社から上司に対して明確に指示されていたにもかかわらず、戸籍が変更されていなければ、あるいは細やかな心遣いがなければ女性と認められないと受け取られる趣旨の、本人の人格を否定する精神的攻撃があったことも認められた。

●SOGIハラのみで労災認定「大きな意味がある」

小野山弁護士は、上司によるSOGIハラは「重大なハラスメントであるのは明白」として、労基署の判断は「当然といえば当然の判断だった」という。

今回の労災認定については、「ハラスメントのみを具体的な出来事として正面から認めたのは大きな意味がある」と指摘する。

「複数の具体的な出来事、特に長時間労働と併せて、労災申請してようやく認定されることもあるという考え方もあるところです。

ハラスメントを受けて苦しんでいる中でも、上司の発言を録音するなど証拠を集めて、勇気を出して労災申請に踏み出したことがこの結果につながったと思いますので、今回の労災認定について広く社会に知ってもらえればと思います」

会社員も、上司の発言を録音していたことが労災認定の証拠として大きな決め手になったと話す。

「『この上司からまた変なことを言われるんだろうな、ハラスメントをされそうだな』というのは、今も働いている中で苦しんでいる方々はきっと気づいていると思います。

(ハラスメントを受けても)証拠がなくて泣き寝入りせざるをえないと思っている方も多いと思うので、ぜひ証拠を集めて泣き寝入りせずに戦ってもらいたいです」

会社員は、上司のハラスメント行為を「SOGIハラ」と位置付けていることについて、「SOGIハラという言葉が広まることが本質というわけではない」と話す。

「ハラスメントに当たる行為を『してはいけない』ということが認識しやすくなるから『●●ハラ』という名称を付けるのであって、人権を守る、他人を思いやるという考えがあれば、本来、名称なんて付ける必要はないはずです。

ただ現状、SOGIハラに当たる行為をやってはいけないという認識すらない人が多いので、SOGIハラという言葉が広まることは、より苦しむ人を減らすことができる近道なんだろうなとは思っています」

ハラスメントのない職場を作るには「社会全体の理解が重要」としつつも、理解を求める行為に基づくものとして「法律」を挙げる。

「(ハラスメントに苦しんでいる人には、法令の制定・改正につながる)政治に積極的に関わってほしいし、諦めずに日々の生活を営んでほしいです。

自分の心身が傷つかない程度であることを前提に、(ハラスメントをなくすために)泣き寝入りせずに戦ってもらえればと思います」

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