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五輪組織委「元理事」の関係先を家宅捜索、東京地検特捜部の今後の動きは?
2022年08月02日 11時48分

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事が、大会スポンサーだった紳士服大手のAOKIから金銭の提供を受けていたとされる事件で、東京地検特捜部が元理事の自宅など、関係先に家宅捜索に入ったと報じられている。今後の特捜部の動きについて、元東京地検検事の西山晴基弁護士に聞いた。

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事が、大会スポンサーだった紳士服大手のAOKIから金銭の提供を受けていたとされる事件で、東京地検特捜部が元理事の自宅など、関係先に家宅捜索に入ったと報じられている。今後の特捜部の動きについて、元東京地検検事の西山晴基弁護士に聞いた。

●「依頼」「取り計らい」などの事実があったかどうか

――特捜部が家宅捜索した狙いは?

特捜部は、家宅捜索によって、受託収賄罪に関する次のような証拠を得たかったのだと考えられます。

(1)AOKIが、元理事に対して、スポンサー企業に選定するように取り計らってほしい旨の依頼をしたこと〈依頼〉
(2)元理事が自身の影響力を利用し、AOKIをスポンサー企業に選定するように取り計らったこと〈取り計らい)
(3)AOKIが提供したコンサル料の実態が(2)の対価といえること〈対価性〉

画像タイトル 報道をもとに作成

――そもそも受託収賄罪と普通の収賄罪との違いは?

刑法197条1項は「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し・・・たときは、5年以下の懲役に処する」(単純収賄罪)、さらに、「この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する」(受託収賄罪)と規定しています。

単純収賄罪と受託収賄罪の違いは「請託」、つまり、(1)〈依頼〉の事実があるかどうかです。

特捜部が受託収賄罪の容疑で捜査を進めていることからすると、当然(1)〈依頼〉の事実を立証するための証拠を得たいと考えているはずです。

●金銭授受が「職務に関し」おこなわれたものかどうか

――特捜部の最大の目的は?

一方で、特捜部の最大の目的は(2)〈取り計らい〉、(3)〈対価性〉に関する証拠と思われます。

元理事には、AOKIから受け取った金銭は「自らが代表を務めるコンサル会社とAOKIとのコンサル契約に基づく対価(コンサル料)であった」、つまり、(2)〈取り計らい〉とは別の目的の対価であったという言い分があります。

特捜部は、この元理事の言い分を覆して、AOKIとの間での金銭授受が「職務に関し」おこなわれたものであることを立証する必要があります。

「職務に関し」の要件は分析的に見ると、 (ⅰ)「職務」にあたる行為((2)〈取り計らい〉) (ⅱ)金銭を(ⅰ)の行為「に関し」受ける行為((3)〈対価性〉) に分けられます。

元理事の言い分との関係では、(ⅱ)((3)〈対価性〉)の判断がより難しくなると思われます。

――収賄罪の「職務」にあたる行為とは何か?

収賄罪の「職務」には、自己の職務に基づく事実上の影響力を利用して行われる行為等、公務員の職務と密接に関連する行為も含まれます(最決昭31年7月12日)。

たとえば、過去の判例では、北海道開発庁長官が、直接の指揮監督権限をもたない下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し、港湾工事の入札に関し特定業者に特別の便宜を図るよう働きかけた行為(最決平22年9月7日)が挙げられます。

今回のケースでは、(2)〈取り計らい〉の事実、つまり、元理事が、理事兼電通の元専務であることによる影響力等を利用し、電通関係者の多い五輪組織委のマーケティング局等に対して、AOKIをスポンサー企業に選定するように取り計らったといえれば、「職務」にあたる行為があったといえます。

特捜部は、この点を立証するために、五輪組織委内でのメールのやり取りや「マーケティング専任代理店」に指名されていた電通とのやり取りに関する証拠等を押収したのでしょう。

●客観的証拠の収集が整った段階で逮捕される可能性

――職務「に関し」受け取ったといえるか?

金銭を職務「に関し」受け取ったといえるには、当該行為と金銭授受との間に対価関係があったといえる必要があります。

たとえば、冒頭で述べた当該行為の「請託」((1)〈依頼〉)の存在は、当該行為と金銭授受との関係を明確にするといえ、対価関係を推認させる有力な事実となります。

もしかすると、特捜部としては、「より法定刑が重い受託収賄罪で立件したい」と考えているというよりは、立証上、「対価関係を立証するためには受託収賄罪で組み立てざるを得ない」と考えている可能性もあります。

前述のとおり、元理事には、「(2)〈取り計らい〉とは別の目的の対価であった」という言い分があり、特捜部としては、この目的を覆すだけの証拠を固める必要があるからです。

過去の裁判例には、「実体のある職務外活動に関し適法な趣旨で供与された金員については・・・賄賂と認定することは慎重でなければならない」などとして無罪としたものもあり(大阪高裁令和2年6月17日判決)、今回のケースでも、立証が困難になる可能性があります。

――ポイントは?

元理事の言い分を覆して、金銭を職務「に関し」受け取ったと立証するには、

・コンサル契約は事実上架空のものであった(実態を伴わない契約であった)
・架空ではないとしても、その契約に照らして過剰に高額なコンサル料が設定されていた

などの事実が必要になると思われます。

画像タイトル 報道をもとに作成

だからこそ、特捜部は、当該コンサル契約の契約書等も押収したのでしょう。

この点、コンサル料について、「月額100万円の設定がされていたところ、五輪事業参入後は50万円に減額されていた」という事実が明らかになっていますが、コンサル料が本来より高額に設定されていたことを推認させる一つの事実になるでしょう。

なお、4500万円のコンサル料とは別に、AOKI側から元理事側に対し、2017年中、2億数千万円が送金されていた事実も明らかになっており、元理事は「2009年頃から(コンサル契約以前から)行っていたコンサル業務の未払い報酬」等として受け取った旨の供述をしているようです。

この2億数千万円についての元理事の言い分は、未払い報酬としてはあまりに高額であること、支払時期が不自然であることなどから、4500万円のコンサル料についての言い分よりも不合理であると判断される可能性が高いでしょう。特捜部としては、2億数千万円の賄賂性を立証することで、4500万円の賄賂性の立証につなげる戦略も立てていると考えられます。

――元理事の逮捕の可能性は?

元理事とAOKIとの間の「請託」((1)〈依頼〉)の有無、金銭授受の趣旨とその実態((3)〈対価性〉)については、元理事とAOKI創業者青木前会長との間で口裏合わせがなされるおそれがあるため、特捜部としては、客観的証拠の収集等が整った段階で、両名を逮捕して捜査を進めようと考えている可能性があると思われます。

今後も、特捜部の捜査動向に目が離せない状況が続きます。

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