4412.jpg
自衛官の安保出動拒否、審理差し戻し、「司法の黙認が許されないことを示した」猪野弁護士が指摘
2018年02月04日 09時50分

安全保障関連法に基づく防衛出動は憲法9条違反だとして、茨城県の陸上自衛官の男性が国を相手取って、「存立危機事態」での命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は1月31日、訴えを却下した東京地裁判決を取り消し、審理を東京地裁に差し戻した。

報道によると、杉原則彦裁判長は、「出動命令に従わない場合、刑事罰の懲戒処分を受ける可能性があり、訴えの利益はある」と述べた。安保関連法をめぐる現役自衛官の「訴えの利益」を認めて、裁判で争えるとした判断は初めてだという。

自衛官の男性は、命令に従うと生命に重大な損害が生じる可能性があるとして提訴。地裁判決では、「原告に出動命令が発令される具体的・現実的な可能性があるとは言えない」として、裁判では争えないとしていた。

今回の判決は画期的だとも指摘されているが、どう評価すればいいのだろうか。憲法問題に詳しい猪野亨弁護士に聞いた。

安全保障関連法に基づく防衛出動は憲法9条違反だとして、茨城県の陸上自衛官の男性が国を相手取って、「存立危機事態」での命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は1月31日、訴えを却下した東京地裁判決を取り消し、審理を東京地裁に差し戻した。

報道によると、杉原則彦裁判長は、「出動命令に従わない場合、刑事罰の懲戒処分を受ける可能性があり、訴えの利益はある」と述べた。安保関連法をめぐる現役自衛官の「訴えの利益」を認めて、裁判で争えるとした判断は初めてだという。

自衛官の男性は、命令に従うと生命に重大な損害が生じる可能性があるとして提訴。地裁判決では、「原告に出動命令が発令される具体的・現実的な可能性があるとは言えない」として、裁判では争えないとしていた。

今回の判決は画期的だとも指摘されているが、どう評価すればいいのだろうか。憲法問題に詳しい猪野亨弁護士に聞いた。

●出動命令が発動されていない現段階でも不利益を想定して認めた

今回の判決の画期的な点は、安保関連法に基づく出動命令について、発動されていない現段階でも出動拒否をした場合の受ける不利益を想定してそれを正面から認めたことです。しかも戦闘部隊に配属されていないことについても対象とした点です。

安倍政権は導入時には安保関連法によって平和が保たれるかのように説明をしていましたが、高裁判決は、そうではなく実際に発動される可能性、さらにはそれが実際の戦闘部隊ではない場合でも出動命令が下される可能性があることを前提したという意義があります。どの部隊に配属されるかに関わらず入隊時には「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め」と宣誓することから当然の帰結と言えます。

●門前払いした一審判決には、憲法判断をしたくないという本音が見える

裁判所で争うためには、現実的な不利益を負う可能性が必要ですが、一審判決は、自衛官の置かれた危険は抽象的なものに留まるとして門前払いしたのです。背景には政治性を有する安保関連法に対する憲法判断をしたくないという本音も見えてきます。この論理に従えば、「存立の危機状態」になり、さらに具体的な命令が発動される具体的・現実的可能生があるときまで提訴できませんが、それではあまりに対象範囲が狭すぎて裁判所による救済の可能性そのものを否定することになります。

●高裁判決を前提にすると、安保関連法そのものの違憲性を問題にせざるを得なくなる

高裁の提起する危険の可能性を前提に審理を行えば、国(防衛省)がその自衛官には絶対に安保関連法に基づく出動命令を出さないと確約しない限りは、安保関連法そのものの違憲性を問題にせざるを得なくなります。

つまり「存立の危機状態」自体が曖昧な概念であり、どのような場合を想定しているのか国会審議でも政府答弁こそ具体性がなく、その判断は政府が第一義的には行うのですから違憲の出動命令が出される可能性は十分にあるわけです。

●高裁判決は司法が黙認することは許されないということを示した

特に専守防衛を想定して入隊した自衛官にとっては安保関連法により自衛隊の性質が大きく転換してしまうことになり、今まで以上に生命の危険にさらされる可能性が高くなったのですから、安保関連法に基づく命令を拒否して刑事裁判の中で争う、生きて帰還できれば精神的苦痛に伴う損害賠償請求(国賠)を提起するとかではなく、事前に正面から違憲性を争えるようにすることは当然です。

しかし、これに止まらず司法の果たすべき役割はそれに止まらず、立憲主義を回復させ、違憲判決が射程に置かれなければかえって安保関連法に「合憲」のお墨付きを与えることになりかねません。

今回の東京高裁の判決は、この安保関連法に司法が黙り(黙認)でいることは許されないことを示したとも言えます。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る