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なぜ大阪地裁は「公務執行妨害」で逮捕された「反原発デモ参加者」を無罪としたのか?
2013年09月15日 16時55分

昨年10月に関西電力前で行われた「反原発デモ」で、2人の警察官を押し倒したなどとして現行犯逮捕され、公務執行妨害と傷害の罪に問われた40代の被告男性に「無罪」の判決が出た。

大阪地裁の裁判官は8月26日の判決で、「故意とは認められない」と無罪の理由を説明したが、一体なぜそんな結論に至ったのだろうか。判決のポイントを金子宰慶弁護士に聞いた。

●「わざわざ警官の腕を引っ張って倒そうとするのか?」

「被告男性の起訴事実は、警官Xの身体をつかんで路面に引き倒し、警官Yの身体をつかんで路面に押し倒したというものでした。

裁判官は、この二つの事実について、どちらも検察官の立証が不十分だとして無罪としました」

――そうなった理由を、詳しく教えてほしい。

「二つとも似たような判断なので、今回は警官Xのケースだけ検討します。

まず現場の状況ですが、被告男性は反原発デモの参加者で、警官Xはデモの警備活動をしていた警察官でした。

現場には、相当な人数の警察官がいたと思われます。公判では、複数の警察官が《被告男性が警官Xの右腕をつかんで路面に引き倒したのを見た》と証言しました」

――裁判官はその証言は認めている?

「裁判官は《被告男性が警官Xの右腕をつかんで引っ張ったこと》と、《そこで警官Xが倒されたこと》は認めています。しかし、そのうえで被告男性の行為は《故意とは断定できない》と判断しました」

――そこが謎だ。警官を引っ張って倒したなら、犯罪では?

「裁判官は、そのような状況下で、警官に対して攻撃しようと考えた人が、《わざわざ警官の腕を引っ張って倒そうとするのか》という点に、最大の疑問を持ちました。

そもそも被告男性が警官を攻撃するなら、他に方法はいくらでもある。そのうえ、警官が腕を振り払ったら、被告男性だけが転んでしまいます。それでは、被告男性のリスクが大きすぎる、という考えです」

●「合理的な疑い」があれば有罪にはできない

――攻撃でないなら、一体何だったのか?

「被告男性は直前にかなり飲酒していました。アルコール検査の結果、酒気帯び運転となる数値の4倍ものアルコールが検出されました。

そこで、裁判官は被告男性が足元をふらつかせて、とっさに警官Xの右腕をつかんで引っ張ってしまい、警察官がバランスを失って倒れこんでしまったという可能性がある、と判断したのです」

――それは「そういう可能性もある」というだけでは?

「そうです。しかし、これは『合理的な疑い』と言えます。そして今回、検察はその疑いを十分に突き崩すことができませんでした。

このように、合理的な疑いを差し挟む余地があれば無罪となる。それが刑事裁判の原則です」

この裁判は9月6日、検察側が控訴したことで、大阪高裁に舞台を移して続くことになった。高裁の裁判官が、どのような判断を下すのか。引き続き注目を集めそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

昨年10月に関西電力前で行われた「反原発デモ」で、2人の警察官を押し倒したなどとして現行犯逮捕され、公務執行妨害と傷害の罪に問われた40代の被告男性に「無罪」の判決が出た。

大阪地裁の裁判官は8月26日の判決で、「故意とは認められない」と無罪の理由を説明したが、一体なぜそんな結論に至ったのだろうか。判決のポイントを金子宰慶弁護士に聞いた。

●「わざわざ警官の腕を引っ張って倒そうとするのか?」

「被告男性の起訴事実は、警官Xの身体をつかんで路面に引き倒し、警官Yの身体をつかんで路面に押し倒したというものでした。

裁判官は、この二つの事実について、どちらも検察官の立証が不十分だとして無罪としました」

――そうなった理由を、詳しく教えてほしい。

「二つとも似たような判断なので、今回は警官Xのケースだけ検討します。

まず現場の状況ですが、被告男性は反原発デモの参加者で、警官Xはデモの警備活動をしていた警察官でした。

現場には、相当な人数の警察官がいたと思われます。公判では、複数の警察官が《被告男性が警官Xの右腕をつかんで路面に引き倒したのを見た》と証言しました」

――裁判官はその証言は認めている?

「裁判官は《被告男性が警官Xの右腕をつかんで引っ張ったこと》と、《そこで警官Xが倒されたこと》は認めています。しかし、そのうえで被告男性の行為は《故意とは断定できない》と判断しました」

――そこが謎だ。警官を引っ張って倒したなら、犯罪では?

「裁判官は、そのような状況下で、警官に対して攻撃しようと考えた人が、《わざわざ警官の腕を引っ張って倒そうとするのか》という点に、最大の疑問を持ちました。

そもそも被告男性が警官を攻撃するなら、他に方法はいくらでもある。そのうえ、警官が腕を振り払ったら、被告男性だけが転んでしまいます。それでは、被告男性のリスクが大きすぎる、という考えです」

●「合理的な疑い」があれば有罪にはできない

――攻撃でないなら、一体何だったのか?

「被告男性は直前にかなり飲酒していました。アルコール検査の結果、酒気帯び運転となる数値の4倍ものアルコールが検出されました。

そこで、裁判官は被告男性が足元をふらつかせて、とっさに警官Xの右腕をつかんで引っ張ってしまい、警察官がバランスを失って倒れこんでしまったという可能性がある、と判断したのです」

――それは「そういう可能性もある」というだけでは?

「そうです。しかし、これは『合理的な疑い』と言えます。そして今回、検察はその疑いを十分に突き崩すことができませんでした。

このように、合理的な疑いを差し挟む余地があれば無罪となる。それが刑事裁判の原則です」

この裁判は9月6日、検察側が控訴したことで、大阪高裁に舞台を移して続くことになった。高裁の裁判官が、どのような判断を下すのか。引き続き注目を集めそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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