5639.jpg
Twitter戦略に目覚めた労働弁護士の重鎮 「フェイクニュースはつぶす。社会のために」
2019年05月08日 09時44分

「フェイクニュースはつぶす。社会のために、ひとつずつ、つぶさないといけない」。こう話すのは、日本労働弁護団の幹事長、棗(なつめ)一郎弁護士。労働法制に詳しいエキスパートとして、政府が進めようとする労働政策の問題点などをこれまで指摘してきた。

世論に訴えかける主戦場は、国会での法案審議や採決のタイミングをにらんでの大規模な集会やデモ、街頭演説などだった。だが、これだけではネット空間に広がるデマやフェイクニュースを何となく信じる層に十分届かないという思いが、日増しに強くなったという。

「重い腰をあげて」(棗弁護士)、Twitterでの情報発信をはじめて2カ月あまり。どのような手応えを得て、今後どうTwitterを活用していくのか。4月下旬、棗弁護士に話を聞いた。(編集部・下山祐治)

「フェイクニュースはつぶす。社会のために、ひとつずつ、つぶさないといけない」。こう話すのは、日本労働弁護団の幹事長、棗(なつめ)一郎弁護士。労働法制に詳しいエキスパートとして、政府が進めようとする労働政策の問題点などをこれまで指摘してきた。

世論に訴えかける主戦場は、国会での法案審議や採決のタイミングをにらんでの大規模な集会やデモ、街頭演説などだった。だが、これだけではネット空間に広がるデマやフェイクニュースを何となく信じる層に十分届かないという思いが、日増しに強くなったという。

「重い腰をあげて」(棗弁護士)、Twitterでの情報発信をはじめて2カ月あまり。どのような手応えを得て、今後どうTwitterを活用していくのか。4月下旬、棗弁護士に話を聞いた。(編集部・下山祐治)

●SNS空間を軽視してはいけない

ーーTwitterアカウントでの発信を始めたのが2月下旬でした。始めた経緯を教えてください

2018年の働き方改革をめぐる議論で、私たちの主張を世の中に十分広げることができなかったという大きな反省があります。

働き方改革関連法は、時間外労働の上限規制と専門業務にしぼった適用除外などをセットで盛り込みました。つまり、労働者にとっていいことと抱き合わせにされ、反対しにくい層が生まれてしまったのです。

専門業務にしぼった適用除外というのは、第1次安倍政権が断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション」が目指していたものと本質は変わりません。かつて断念した「売れない不良品」との抱き合わせ販売との表現もありましたが、まさにその通りだと感じています。

ところが、政府が目指す働き方改革とは、自由な働き方を推進するために必要なものであるというイメージが強調され、特に若者たちがそこに乗っかってしまいました。「会社にしばられなくていいんだ」という誤解が広がったのです。

ーーこれまで続けてきた反対運動では効果がなかったということでしょうか

効果がないということではないのですが、SNS空間を軽視してはいけないということを実感しました。今回、国会前の座り込みや集会、デモ、街頭演説などをかつてないほど精力的に実施して反対を訴えました。それでも世論の反応はあまりないなと感じたのです。

ーーそこで自らが発信することを始めようと思い立ったのですか

周囲から背中を押され、重い腰をあげて始めることにしました。もともと1日に100件以上のメールに目を通しているのですが、さらにTwitterで発信もというのは大変かなと思っていました。本当はしんどい部分もあるのですが、今では必須のものと捉えています。

●始めて2カ月、フォロワーは2500人超

ーー実際どのような手応えを感じていますか

始めて2カ月あまりで、フォロワーは2500人を超えました。フォロワー数の伸びとしては、「まあまあ」だと周りからは言われます。

これまで労働組合などについて、よく知らなかったという一般の人からの素直な疑問が寄せられることもあります。それに対して、これはこういうことなんですよということを、法律や事件を扱った経験を踏まえて正確に発信するように努めています。

ーーどんな声が寄せられましたか

例えば、コンビニの24時間営業がいいのかどうかという問題では、ある人は、店舗オーナーは独立した事業者なんだから、本部と契約を結んでいる以上、お店を24時間あけるのは当然じゃないかという声が寄せられました。

これに対して、私は、独立した事業者はいつお店をあけるのが経費などの観点から最適か判断して、自ら選ぶことができるけど、コンビニのオーナーはこうした選択ができないことが根本的な問題で、そのために長時間労働になってしまっていることを指摘しました。

さらに、「Uber Eats」(ウーバーイーツ)など雇用に寄らない働き方が広がっていますが、これに関しても片手間で空き時間にやっていれば労働法上の指揮命令下にあるとは言えないとの声が寄せられました。

これについては、解釈が誤っていると指摘しました。運ぶことに対する賃金などにとどまらず、いつまでに運ぶようにということも縛られていて、確実に指揮命令下にあるからです。

アルバイトだろうが、セカンドジョブだろうが、指揮されて働いていて給与をもらっていれば、労働法上の指揮命令下にあり、労働契約が成立しているということになるのです。

●デマ拡散、何らかの規制議論を

ーーフォロワーが多いTwitterアカウントが発信した情報は、例えデマやフェイクニュースと疑われても、拡散していくことで事実であるかのように受け止められる問題がありますよね

はい。まさにそこが大きな問題で、デマやフェイクニュースが拡散することで何となく事実のように認識してしまう人たちがいます。デマやフェイクニュースは、ひとつずつ、つぶさないといけません。健全な民主主義社会のために大変重要なことです。

私も可能な範囲で、Twitterで流れている労働問題に関するデマやフェイクニュースは根拠をもって間違っていることを指摘し、正すよう心がけています。

ーーTwitter社が対策を取るべきだと考えますか

そこはまだ深く検討を重ねたわけではないので、踏み込んだことは言いにくいのですが、何らかの規制を考える議論は必要だと思います。実社会では名誉を傷つける行為は犯罪であり許されません。Twitterのなかでデマやフェイクニュースを流して広がっていくことが許されていいのでしょうか。

意見や論評であればいいのですが、事実ではないことをあたかも事実のように拡散させることはあってはならないと思います。

ーーデマやフェイクニュースをただす報道機関の役割も大きそうですね

そう思います。TwitterなどSNSの力はとても強いですが、やはり大きく世論を形成していくという意味ではメディアによる報道の役割が大きいです。民主主義社会の必須のツールであることは今も昔も変わりません。

フォロワー数が多い人が、極端な発言などを繰り返すと、フェイクニュースはあっという間に広がってしまいます。

そこを報道経験がある記者がちゃんとチェックして、ファクトを踏まえて公正に報じるということが重要です。フェイクニュースに踊らされると、ファシズムにつながる恐れもあります。

ーー今後、Twitterをどのように活用していきますか

しっかりとした確証がある言説を発信するようにしているので、限られた字数とはいえ、それなりに負担にはなっています。ただ及び腰になってツイートしてもあまり共感を得られないと思うので、今後はもっと戦略的にツイートしていけたらと思っています。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る