7867.jpg
稲田政調会長の夫を批判「弁護士バカ」は名誉毀損にあたらない!「論評」との境界は?
2016年05月03日 10時30分

自民党の稲田朋美政調会長への取材をめぐり、週刊新潮に「弁護士バカ」などと書かれ、名誉を傷つけられたとして、夫の弁護士が新潮社に500万円の損害賠償などを求めた裁判で、大阪地裁は4月19日、請求を棄却する判決を言い渡した。

週刊新潮は昨年4月9日号で「『選挙民に日本酒贈呈』をない事にした『稲田朋美』政調会長」という見出しの記事を掲載した。その中で、夫の弁護士が同誌の取材に対して、記事を掲載すれば法的な対抗手段をとると文書で通告してきたとして、「恫喝(どうかつ)だと気づかないのなら、世間を知らない弁護士バカ以外の何ものでもない」と書いた。

報道によると、大阪地裁の増森珠美裁判長は判決理由で、記事は社会的評価を低下させるが、稲田政調会長の公選法違反疑惑を報じた内容で「公益目的」があったと認定した。また、「弁護士バカ」との表現も論評の域を逸脱していないとした。

「バカ」というのは一般的には侮蔑的な表現のように思えるが、なぜ、裁判所は名誉毀損を認めなかったのか。報道をめぐる法律問題にくわしい秋山亘弁護士に聞いた。

自民党の稲田朋美政調会長への取材をめぐり、週刊新潮に「弁護士バカ」などと書かれ、名誉を傷つけられたとして、夫の弁護士が新潮社に500万円の損害賠償などを求めた裁判で、大阪地裁は4月19日、請求を棄却する判決を言い渡した。

週刊新潮は昨年4月9日号で「『選挙民に日本酒贈呈』をない事にした『稲田朋美』政調会長」という見出しの記事を掲載した。その中で、夫の弁護士が同誌の取材に対して、記事を掲載すれば法的な対抗手段をとると文書で通告してきたとして、「恫喝(どうかつ)だと気づかないのなら、世間を知らない弁護士バカ以外の何ものでもない」と書いた。

報道によると、大阪地裁の増森珠美裁判長は判決理由で、記事は社会的評価を低下させるが、稲田政調会長の公選法違反疑惑を報じた内容で「公益目的」があったと認定した。また、「弁護士バカ」との表現も論評の域を逸脱していないとした。

「バカ」というのは一般的には侮蔑的な表現のように思えるが、なぜ、裁判所は名誉毀損を認めなかったのか。報道をめぐる法律問題にくわしい秋山亘弁護士に聞いた。

●何が争点だったのか?

「本件は、当該弁護士が週刊誌に対して取った一定の行動(記事公表前の段階で、民事訴訟だけでなく刑事告訴を持ち出して、記事掲載をやめるよう警告する文章をファックスした行為)を前提事実として、このような弁護士の行動が、週刊誌への『恫喝』にあたるとして、『世間を知らない弁護士バカ』と論評した記事の違法性が問題となった事案です」

秋山弁護士はこのように述べる。どんな場合に違法と評価されるのか。

「このような特定の事実を前提として、人の行動や発言を『論評』をした記事が、人の社会的評価を低下させる記事であった場合、次のような4つの要件が全て満たされた場合に、名誉毀損としての違法性はないというのが判例の考え方です。

(1)記事の内容が公共の利害に関する事実に関するものであること(事実の公共性)、

(2)記事掲載の目的がもっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)、

(3)意見・論評の前提事実の重要な部分が真実であること(または、意見・論評の前提事実について、行為者が真実を信ずるにつき相当の理由があったこと)、

(4)表現内容が人身攻撃におよぶなど、意見・論評としての域を逸脱したものではないこと」

●「論評」の域を逸脱していたのか?

今回のケースは、どう考えればいいのか。

「本件については、公人である稲田政調会長の公選法違反疑惑を報じる記事に対する、その夫の弁護士の行動を報じたものですので、上記(1)と(2)の要件は満たされるでしょう。

また、この弁護士が週刊誌に対して前記のような警告文をファックスしたことも事実だとした上で、裁判所は上記(3)の要件も満たしていると判断したと考えられます。

問題は、『世間を知らない弁護士バカ』という表現が上記(4)の要件を満たすのかという点です。

本件はかなり微妙な限界事例だと考えられますが、記事が公表される前の段階から刑事告訴に言及する警告をした行為に対する論評としては、当該弁護士に対する批判の域を逸脱していないと判断したと考えられます」

なぜ、「批判の域を逸脱していない」と判断されたのか。

「背景には、次のような事情があったと考えられます。

マスメディアは、公人に対する正当な批判をすることが重要な役割だと考えられています。

そして、マスメディアの表現の自由の尊重という見地から、言論機関の表現行為に対する名誉毀損罪での刑事罰の適用は、相当に謙抑的であるべきだと、一般的に考えられています。

一方で、本件では批判の対象となった人物が公人である稲田政調会長の夫であり、弁護士であったという事情があります。

こうしたことが、裁判所の前記の判断に影響しているものと考えられます」

秋山弁護士はこのように分析していた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る