8442.jpg
「君にはいいものがある」、声優を夢見て高額な契約も…「オーディション詐欺」が急増
2018年09月18日 08時43分

「新人発掘オーディション」というサイトから応募をしたら、あれよあれよと3次審査まで合格。最終審査には落ちたものの「君にはいいものがある」と囁かれ、事務所と50万円を超える「アーティスト等育成所属契約」をしてしまったーー。オーディション詐欺とも呼ばれているこの種のトラブルが若者を中心に広がっている。

東京都内での相談件数は2016年度が162件、2017年度は256件と倍増した(東京都消費生活総合センター)。そこで、東京都消費者被害救済委員会があっせん解決した事例を8月末、公表した。紹介されている事例は生々しく、若者の夢をたくみに操る事業者と、夢を目前にして冷静さを失った若者の姿が見えてくる。(ライター・高橋ホイコ)

「新人発掘オーディション」というサイトから応募をしたら、あれよあれよと3次審査まで合格。最終審査には落ちたものの「君にはいいものがある」と囁かれ、事務所と50万円を超える「アーティスト等育成所属契約」をしてしまったーー。オーディション詐欺とも呼ばれているこの種のトラブルが若者を中心に広がっている。

東京都内での相談件数は2016年度が162件、2017年度は256件と倍増した(東京都消費生活総合センター)。そこで、東京都消費者被害救済委員会があっせん解決した事例を8月末、公表した。紹介されている事例は生々しく、若者の夢をたくみに操る事業者と、夢を目前にして冷静さを失った若者の姿が見えてくる。(ライター・高橋ホイコ)

●オーディションに合格し…「チャンスだな」と感じた

相談者は声優志望のAさん。20歳代前半の女性である。Aさんはスマートフォンで「新人発掘オーディション」というサイトを見つけて応募した。サイトには「オーディション出身者が続々デビュー」と書いてあったという。選考は書類審査から最終審査まで4回行われる。最終審査でグランプリを取ると1年以内にメジャーデビューができる。

Aさんは1次審査である書類選考に合格し、2次審査を受けることになる。2次審査は10人くらいいるなかで、1人ずつ演技などをしたそうだ。後日、2次審査にも合格したと電話連絡があった。

3次審査はスタジオのようなところで台本を見ながら演技をした。審査終了後、審査担当者が話しかけてきた。「今の演技でグランプリは無理だ。けれど、君はいいものを持っている。本気でやりたいなら一度事務所で話をしてみないか」と言われた。

後日事務所に出向くと、まずはレッスン室などを見学。その後個室でパンフレットを見ながら「こういうふうにデビューしていくんだ」という説明を受けた。契約期間は1年間。歌や演技のレッスンもあり、オーディションも紹介してくれるという話だった。「可能性は誰にでもある」と言われ、これはチャンスだなと思った。

このあと、育成所属契約の説明をされた。お金がかかると言われ、総額約53万円だった。分割払いを希望したところ毎月2万円・30回払いの個別クレジット契約をすることになった。

その後、母に電話をしたところ「払えないでしょう」と言われ、クーリング・オフをすることにした。しかし、クーリング・オフに応じてもらえず、督促が続くので消費生活センターに相談をした。

この事例を読んだ読者のなかには、50万円を超える契約を簡単にしてしまうなんてAさんにも落ち度があると感じた人もいるかもしれない。

しかし、想像してほしい。Aさんは声優になりたいという夢を持っていた。そして応募から事務所を訪ねるまでは3カ月間を費やしている。この期間、審査に合格するごとにAさんは夢に近づいていく喜びを感じていたのではないだろうか。冷静に判断できない心情だったとしても不思議はない。

●ネット上には同種事業者の広告がたくさん掲載されている

今回の事例は、個別クレジット契約に「個別クレジットが不成立の場合は、原契約も不成立」という主旨の契約条項があり、個別クレジットが不成立(申し込み後に信販会社の審査で否決されたため、クレジット契約が成立しなかった)となったことから契約は無効と判断。結果、相談者は一切費用を支払う必要はないとする合意ができた。

しかし、個別案件が解決できたからといって、放置することが許されるわけではない。この事例のような商売をしている事業者は、ほかにも多数存在し、ネット上に広告を出していると委員会は警告する。

この種のオーディションの広告には、有名タレントの顔写真が使われていることもある。サイトを見た若者が「オーディションに合格さえすれば、自分もこれらの有名タレントのようになれる」と錯覚しても不思議ではない、そういう広告文言が記載されているという。

実際に有名タレントになることはあるのだろうか。Aさんが契約した事業者に委員会が聞き取り調査をしたところ、応募者は1次、2次、3次と勝ち進んでいって、最終審査では多くが不合格になるようであった。

しかも、いままで同社からデビューしたアーティストのなかに有名と言えるほどの人はまだいないそうだ。委員会は事業者に対し「有償のタレント養成契約の締結が目的ならば、勧誘に先立って目的を明示する」ことを要請している。

●高額な契約は即決せず、周囲に相談してほしい

委員会は「簡単にタレントになれるかのようなことをうたう広告は、多くが本件類似の紛争を生む内容を含んでいることを知ってもらいたい」という。

有名人になる夢を強く持つ若者が「才能がある」と言われれば、ついつい気持ちは舞い上がり契約を即決したくなるだろう。しかし、高額な契約はその場で決断しないでほしい。周囲に相談する、評判を調べるなどしてほしい。ネット上の評判は良い評価を当該事業者自身が書くことができる仕組みであることも念頭に置いてほしい。おかしいなと思ったら、最寄りの消費生活センターへ相談するとよい。

【ライタープロフィール】

高橋ホイコ:2001年国民生活センターに入所。商品テスト、相談情報データベース(PIO-NET)、ホームページ関連の業務に携わってきた。2016年に退職し、現在はフリーライターとして活動している。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る