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元不良たちに「カレーのおばさん」と慕われて 「名物保護司」中澤照子さん、20年の歩み
2021年10月26日 08時22分

「カレーのおばさん」と呼ばれ、地域の人々に親しまれる元・名物保護司の中澤照子さん(80歳)。更生保護活動で優れた功績のあった組織・個人に贈られる、令和3年度の「瀬戸山賞」を受賞した。

中澤さんは1998年から約20年間にわたって保護司を務め、120名超の保護観察対象者と向き合ってきた。名物保護司と呼ばれるゆえんのひとつに、「更生カレー」がある。面談では対象者を自宅に招き、手作りカレーを振る舞いながら話を聞いた。外部の面談スペースを使うこともできるが、「あなたを受け入れますよ」と対象者に伝えるため、自宅にこだわったのだ。

そのカレーが対象者の間で評判になり、保護観察期間が終わっても食べに来る人がしばしば。中澤さんは嫌な顔ひとつせず、「君たち、何回食べたら更生するんだよ」と受け入れてきたという。

やがて「カレー会」という集まりを定期的に開くように。法務省の職員や保護司、地域の人々、元対象者、ボランティアの学生など、多い時には400人が集まり、みんなでカレーを食べながら交流した。

いつしかカレーは「更生カレー」、中澤さんは「カレーのおばさん」と呼ばれるようになった。

定年で保護司を引退した後は、地元の東京・江東区辰巳に「カフェ ラララ」をオープン。カレー会と同様に、“良い子も普通の子もちょっと悪い子も”気軽に集まり、交流できる居場所として地域に根付いている。

筆者は、瀬戸山賞の授賞式(10月21日)で、そんな中澤さんにインタビューし、保護司としての20年間を振り返ってもらった。(ジャーナリスト・肥沼和之)

「カレーのおばさん」と呼ばれ、地域の人々に親しまれる元・名物保護司の中澤照子さん(80歳)。更生保護活動で優れた功績のあった組織・個人に贈られる、令和3年度の「瀬戸山賞」を受賞した。

中澤さんは1998年から約20年間にわたって保護司を務め、120名超の保護観察対象者と向き合ってきた。名物保護司と呼ばれるゆえんのひとつに、「更生カレー」がある。面談では対象者を自宅に招き、手作りカレーを振る舞いながら話を聞いた。外部の面談スペースを使うこともできるが、「あなたを受け入れますよ」と対象者に伝えるため、自宅にこだわったのだ。

そのカレーが対象者の間で評判になり、保護観察期間が終わっても食べに来る人がしばしば。中澤さんは嫌な顔ひとつせず、「君たち、何回食べたら更生するんだよ」と受け入れてきたという。

やがて「カレー会」という集まりを定期的に開くように。法務省の職員や保護司、地域の人々、元対象者、ボランティアの学生など、多い時には400人が集まり、みんなでカレーを食べながら交流した。

いつしかカレーは「更生カレー」、中澤さんは「カレーのおばさん」と呼ばれるようになった。

定年で保護司を引退した後は、地元の東京・江東区辰巳に「カフェ ラララ」をオープン。カレー会と同様に、“良い子も普通の子もちょっと悪い子も”気軽に集まり、交流できる居場所として地域に根付いている。

筆者は、瀬戸山賞の授賞式(10月21日)で、そんな中澤さんにインタビューし、保護司としての20年間を振り返ってもらった。(ジャーナリスト・肥沼和之)

●「やるっきゃないかな」という思いでスタート

――瀬戸山賞を受賞した気持ちをお聞かせください。

保護司活動をスタートして最初に法務省に行ったとき、「大変なことを引き受けたな」という思いで、この大きな建物に押しつぶされそうな気がしました。

けれど、すぐに「やるっきゃないかな」と、挑戦的な言葉が自然と出てきたのを覚えています。長い間お力添えくださった法務省の職員の皆様など、いろいろな人の思いが詰まった賞をいただけて、素直にうれしいです。きっと、元対象者たちも喜んでくれると思います。

画像タイトル 瀬戸山賞授賞式で(肥沼和之撮影)

――約20年間、どんな思いで保護司活動を続けてきたのでしょう?

辛い顔をしている人を見ると、私も辛くなるんです。黙って通り過ぎてしまうと、どうして何もしなかったのか、となお辛くなる。だから声がけしたり、手助けしたりすることで、一時でも笑顔になってもらえれば、私も笑顔になれるんです。

人に喜んでもらおうと思って保護司になったわけではないのですが、自分のしたことを喜んでもらえると、私も一緒にうれしくなる。そんな思いで続けてきました。

――保護観察期間が終わっても対象者に慕われ、家族のような付き合いが続いていることも多いとか。どのようなことを心掛けて対象者と向き合ってきたのですか?

対象者から電話があったら、食事中でも箸を置いて話を聞いていました。忙しいときでも、電話を切ることは絶対にしないで、「今日は難しいけど明日なら相談に乗れるよ」と、必ず受け入れていました。

だって、切羽詰まっているから連絡してきているのに、支えてあげないともっと苦しくなってしまうでしょう。あと、深刻そうなときは電話やメールで済ませずに、必ず会っていました。会うってすごく大事なこと。体温が伝われば、向こうのとがっていた気持ちも丸くなるんですね。

――本当の意味で、対象者に寄り添ってきたのですね。ほかにはどんなことを意識して?

最初から更生させようと思って、自分の考えを押し付けても、聞く耳を持ってもらえません。なので時間をかけて、何でも話せる関係性を築くようにしていました。

この時間を惜しんだら、絶対にいい関係はつくれません。保護司とか関係なく、会社でも学校でも家族でも同じだと思いますよ。

画像タイトル 瀬戸山賞授賞式で(肥沼和之撮影)

――保護司になるのは少々ハードルが高いですが、一般人でもできる更生保護活動はどんなことがありますか?

声がけだと思います。私は街中でもどこでも、「ありがとうね」「髪型が決まってるね」など、いろいろな人に声がけをしてきました。声がけは種まきみたいなもの。みんなが少しずつそうしていけば、機嫌のいい人が増えて、世のなかもうまく回っていくのかな、と思いますね。

【著者プロフィール】

1980年東京都生まれ。ジャーナリスト。人物ルポや社会問題のほか、歌舞伎町や夜の酒場を舞台にしたルポルタージュなどを手掛ける。東京・新宿ゴールデン街のプチ文壇バー「月に吠える」のマスターという顔ももつ。

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