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「腹くう鏡手術」8人死亡は「すべて過失」――群馬大病院「執刀医」の法的責任は?
2015年03月09日 14時20分

群馬大医学部付属病院で「腹くう鏡」を使った肝臓の手術を受けた患者8人が、あいついで死亡していた。この問題で、同病院は3月3日、患者8人の診療すべてについて「過失があった」とする調査報告書を公表した。

同病院では、2010年から14年にかけて、肝臓がんなどの患者8人が、腹くう鏡を使った肝臓切除手術を受けてから4カ月以内に死亡した。その手術はいずれも、第二外科の40代の男性医師が執刀していた。

報告書は、手術前の検査や評価が不十分で、家族への説明も十分におこなわれていなかったと認定。また、診療についての振り返りや主治医によるカルテの記載が乏しいなど、多くの問題点があったとしている。

病院側はすでに遺族に説明し、今後補償を進めていく方針だ。だが、報道によると、遺族の弁護団は今回の報告書について、「医師の刑事、行政処分も考慮すべき悪質な医療過誤で、病院の調査は不十分」と批判している。

今回の問題で、医師はどんな責任を問われることになるのだろうか。医療事件にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。

群馬大医学部付属病院で「腹くう鏡」を使った肝臓の手術を受けた患者8人が、あいついで死亡していた。この問題で、同病院は3月3日、患者8人の診療すべてについて「過失があった」とする調査報告書を公表した。

同病院では、2010年から14年にかけて、肝臓がんなどの患者8人が、腹くう鏡を使った肝臓切除手術を受けてから4カ月以内に死亡した。その手術はいずれも、第二外科の40代の男性医師が執刀していた。

報告書は、手術前の検査や評価が不十分で、家族への説明も十分におこなわれていなかったと認定。また、診療についての振り返りや主治医によるカルテの記載が乏しいなど、多くの問題点があったとしている。

病院側はすでに遺族に説明し、今後補償を進めていく方針だ。だが、報道によると、遺族の弁護団は今回の報告書について、「医師の刑事、行政処分も考慮すべき悪質な医療過誤で、病院の調査は不十分」と批判している。

今回の問題で、医師はどんな責任を問われることになるのだろうか。医療事件にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。

●腹くう鏡手術のメリットとデメリット

「男性医師の責任について考える前に、まず今回問題となった『腹くう鏡手術』について説明したいと思います」

冨宅弁護士はこう切り出した。どんな手術なのだろうか。

「たとえば悪性の腫瘍などを摘出する場合、通常であれば、患部を確認できる程度に腹部を切開し、直接確認したうえで、血液を送る血管を結んで止血し、切除します(開腹手術)。

一方、腹くう鏡手術の場合、腹部を切開しません。腹部に複数の穴を開けて、内視鏡の一種である腹くう鏡のほか、鉗子(刃のないハサミに似た器具)、電気メス、レーザーなどの器具を挿入して、手術をおこないます」

どんなメリットやデメリットがあるのだろうか。

「手術を受ける患者側からすれば、開腹手術よりも身体への負担が軽いので、術後から退院までの期間を大きく短縮することができるというメリットがあります。

しかし、施術者に高度な技術が求められ、手術時間が長くなります。また、腹部切開のように患部を十分に確認できず、切除すべき部分が残ったり、器具により患部以外を傷つけたりする可能性があるなど、デメリットもあります。

こうした危険性が伴う手術であることを前提に、国は、腹くう鏡手術のうちで一定程度の安全性を確認したものだけを保険適用の対象としています。逆から考えると、保険適用対象外の腹くう鏡手術は、国において安全性が確認されていない手術、つまり、通常の医師であれば選択しない手術だといえます」

●法的にも「過失」が認められる

調査報告書によると、92例の腹くう鏡下肝切除術(腹くう鏡を使った肝臓切除手術)のうち、保険適用外の疑いのある手術が58例あった。そのうち「過失があった」と判断された8例で、患者が術後4カ月以内に亡くなったとされている。

「この報告書を前提とすると、群馬大付属病院では、国が安全性を確認できていない腹くう鏡下肝切除術を多数おこなっていたことになります。要するに、通常の医師であれば選択することのない方法による肝切除術がおこなわれていたことを意味します。

もちろん、保険適用外の治療方法だからといって、すべて危険というわけではありませんし、違法というわけではありません。ただし、手術前の検査や評価、手術方法の決定は、極めて慎重におこなう必要があります。これらが不十分だったならば、法的には、施術者に『過失』が認められると考えてよいと思います。

一般論として、民事上は、安全性の確認されていない腹くう鏡下肝切除術によって患者を死亡させたり、あるいは何らかの後遺症を与えたということになると、患者が負った被害の程度に応じて、損害を賠償する責任を負うことになります」

●インフォームドコンセントを得ずに手術をおこなっていた

今回の報告書では、腹くう鏡手術が選択されていたという問題だけでなく、インフォームドコンセント(説明と同意)の問題も取り上げられている。この点については、どう評価すべきだろうか。

「インフォームドコンセントとは、患者や家族が、治療方法の選択にあたって、メリットのみならずデメリットについても十分に説明を受け、理解したうえで、その治療に同意するものです。

裁判所では、病院や医師が、患者のインフォームドコンセントを得ずに手術をおこなった場合、手術によって患者に損害が発生すると損害賠償を命じる、という考え方が採用されています。

報告書によると、手術のインフォームドコンセントに関する診療記載が乏しく、手術説明同意書には、簡単な術式と合併症が箇条書きされているだけだったとされています。

もし裁判になったとしたら、安全性の確認が取れていない手術方法を採用したという『過失』とは別に、インフォームドコンセントを得ずに手術をおこなったという『過失』によって発生した被害について、損害賠償が命じられる可能性が非常に高いと考えられます」

●医師法に基づく行政処分の可能性も

では、刑事上の責任はどうなるのだろうか。

「医師が過失により患者に被害を与えた場合、『業務上過失致死』あるいは『業務上過失致傷』という犯罪が成立する可能性があります。

ただし、医療行為は、患者の生命を救うためにおこなわれる行為であり、多くの医療行為には危険が伴います。また、民事上の損害賠償に加えて刑事的責任を追及する場合というのは、金銭による賠償のみでは不十分だと評価されるケースに限定されなければならないと思います。

したがって、法律や通達、過去の判例などで示された基準から外れた医療行為については、その行為を行った医師を刑事上でも罰する必要がありますが、そうでなければ、民事上の責任に加えて刑事責任までも追及すべきではありません」

今回のケースではどうなるのか。

「腹くう鏡下肝切除術は、法律などで禁止された手術方法ではありません。あくまで今回の8件の腹くう鏡手術についてですが、執刀した医師の刑事責任が追及される可能性は低いのではないかと考えます。

一方、行政処分として 、医師法では、医事に関し犯罪行為や不正行為があった場合には、その医師に対して免許取消や3年以内の医業停止、戒告の処分を下すことができると規定されています。

今回問題となった医師については、犯罪行為の認定を受けなくても、不正行為の認定を受ける可能性がありますので、医師法に基づく処分が下される可能性は否定することができません」

冨宅弁護士はこのように述べていた。

今回の報告書では、問題の医師は、開腹手術でも10件の死亡例があるとされている。そのうち亡くなった患者1人については、虚偽の診断書を作っていたという。今後、こちらについてもしっかりとした調査が求められることになるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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