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自宅に置き去り、子どもが熱中症に…両親逮捕 留守番させたらダメ? 親が気をつけたいこと
2025年07月26日 09時38分

真夏の札幌で、幼い3人の子どもたちが約6時間半の間自宅マンションに置き去りにされ、熱中症の疑いで病院に搬送されたことで、両親が保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されたという報道(HBC北海道放送、7月17日)がありました。

HBCの続報(7月18日)によれば、両親は子どもを置き去りにしてパチンコと焼肉に行っていた可能性があり、約6時間半にわたり、小学校低学年の長男、4歳の長女、1歳の次女を自宅マンションに置き去りにした疑いが持たれているようです。

また、このときの自宅マンションの室温は30度近く、3人は熱中症の疑いで病院に運ばれています。

親が子どもを家に残して外出し、保護責任者遺棄罪で逮捕されるということは、子育て世代の親にとって他人事ではないようにも思われます。

どのような場合に、法的な問題となるのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

真夏の札幌で、幼い3人の子どもたちが約6時間半の間自宅マンションに置き去りにされ、熱中症の疑いで病院に搬送されたことで、両親が保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されたという報道(HBC北海道放送、7月17日)がありました。

HBCの続報(7月18日)によれば、両親は子どもを置き去りにしてパチンコと焼肉に行っていた可能性があり、約6時間半にわたり、小学校低学年の長男、4歳の長女、1歳の次女を自宅マンションに置き去りにした疑いが持たれているようです。

また、このときの自宅マンションの室温は30度近く、3人は熱中症の疑いで病院に運ばれています。

親が子どもを家に残して外出し、保護責任者遺棄罪で逮捕されるということは、子育て世代の親にとって他人事ではないようにも思われます。

どのような場合に、法的な問題となるのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

●保護責任者遺棄罪とは?

保護責任者遺棄罪について、刑法218条は、「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。

本件で問題となり得る「幼年者」ですが、年齢だけではなく、具体的事実関係に基づく扶助の必要性との関係で相対的に判断されます。

たとえば、東京地裁昭和63年10月26日判決(判タ690号245ページ)は、14歳から2歳までの実子4人をマンションに置き去りにし、うち1人を栄養失調症にさせた母親について、保護責任者遺棄、同致傷罪の成立を認めています。

「保護する責任のある者」とは、法令・契約・慣習・条理等によって法的に保護する義務が発生している者をいいます。

民法820条は、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」とあることから、子どもの親は、子どもを「保護する責任のある者」と言えます。

「遺棄」とは、場所的離隔を伴うことにより、要扶助者に生命もしくは身体の危険を生ぜしめる行為のことをいいます。

そのため、子どもを自宅に残して外出する行為が保護責任者遺棄罪に該当するか否かは、子どもに生命もしくは身体の危険が発生しているか否かにかかっています。

たとえば、一人で食事はおろか水分をとることすらできない乳児を放置して出かける、真夏にエアコンの付け方の分からない幼児を残して出かけるなどの行為が該当するでしょう。

●子どもを留守番させる親が、保護責任者遺棄の罪に問われる可能性は?

——子どもを自宅に残して外出し、保護責任者遺棄罪が成立することになれば、たとえば共働き、子育て世代の家庭が仕事のために子どもを留守番させ、犯罪が成立することになってしまいませんか?このような共働き家庭が子どもに留守番をさせる場合と、今回の事件の違いはどこにありますか?

単に子どもを留守番させるだけでは、保護責任者遺棄罪は成立しません。

保護責任者遺棄罪が成立するためには、保護者が外出することによって、子どもに生命もしくは身体の危険が生じる必要があります。ある程度分別がついて、自分で飲食できたり、エアコン等の家電を自分で操作できる子どもに留守番させる分には、生命もしくは身体の危険が生じることはありませんので、保護責任者遺棄罪は成立しません。

今回の場合は、子どもがまだ小さく、エアコン等を操作できず、熱中症の状態となったことから、生命もしくは身体の危険が生じたとして立件に至ったものと考えられます。

●どの程度の危険が生じたかが重視される

——実際に保護責任者遺棄罪として立件されるようなケースで、どのような要素が重視されているのでしょうか?

保護責任者遺棄罪は判例上は抽象的危険犯とされており、現実の危険が生じたことは必ずしも必要ないのですが、実務上立件されるかどうかについては、子どもの生命等への危険が実際に発生したか否かが重視されているのではないかと思われます。

今回のケースでは熱中症ですが、過去の裁判例では2歳の子どもに食事や水分を与えずに脱水症に至らしめたとして有罪となったケースがあります(釧路地裁令和5年5月11日判決<判例秘書>)。

●子育て世代の親が必要以上にナーバスになる必要はない

保護責任者遺棄罪が成立するのは、生命もしくは身体の危険が発生するような例外的な場合です。

子どもにある程度の分別がついているならば、保護責任者遺棄罪のことを恐れて、留守番させることに必要以上にナーバスになる必要はないと思われます。

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