9730.jpg
「GPS端末」を車にとりつける「捜査手法」は適法? 錯綜する判決を元警察官僚が分析
2016年07月09日 09時33分

人工衛星を利用して位置情報を割り出すことができる「GPS」(全地球測位システム)の端末をつかった捜査手法をめぐって、裁判所の判断が大きくわかれている。

報道によると、名古屋高裁は6月下旬、裁判所の令状なしに捜査対象者の車にGPS端末をとりつけた捜査の違法性が問われた裁判で、「プライバシー侵害の危険性があり、令状が必要だった」として、捜査を違法とする判断を下した。

一方、大阪高裁は今年3月、別の窃盗事件の判決で、令状なくGPS端末を取り付けた捜査について「プライバシー侵害の程度はかならずしも大きくない」「重大な違法があったとはいえない」という判断を示した。

どうして、このように異なる判断がおこなわれたのだろうか。GPS端末をつかった捜査をどう考えればいいのだろうか。元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士に聞いた。

人工衛星を利用して位置情報を割り出すことができる「GPS」(全地球測位システム)の端末をつかった捜査手法をめぐって、裁判所の判断が大きくわかれている。

報道によると、名古屋高裁は6月下旬、裁判所の令状なしに捜査対象者の車にGPS端末をとりつけた捜査の違法性が問われた裁判で、「プライバシー侵害の危険性があり、令状が必要だった」として、捜査を違法とする判断を下した。

一方、大阪高裁は今年3月、別の窃盗事件の判決で、令状なくGPS端末を取り付けた捜査について「プライバシー侵害の程度はかならずしも大きくない」「重大な違法があったとはいえない」という判断を示した。

どうして、このように異なる判断がおこなわれたのだろうか。GPS端末をつかった捜査をどう考えればいいのだろうか。元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士に聞いた。

●令状なしのGPS捜査、過去の裁判では?

「GPS捜査による位置情報の取得は、対象車両の底などにGPS端末を取り付けたうえで、捜査官が任意のときに携帯電話から発信器に接続すると、日時や地図、おおよその位置が表示されるというものです。

このほど、名古屋高裁は令状なしのGPS捜査は『違法』とする判決を出しましたが、これまでGPS捜査については、『強制処分』であることを前提に、令状なしの捜査は『違法』とする一連の下級審裁判例(大阪地裁、名古屋地裁、水戸地裁)、任意処分として『適法』とする下級審裁判例(大阪地裁)、『重大な違法とはいえない』とした大阪高裁判決などがあり、錯綜している状態です。

さらに、全国の都道府県警察を監督する立場にある警察庁の刑事局が制定した『移動追跡装置要領』もあるため、これも含めて整理をする必要があります」

●GPS捜査には2つのパターンがある

「ひとくちにGPS捜査といっても、すべてが同じやり方でなく、理論的には大きく分けて2つのパターンがあると考えられます。

1つは、通常の張り込みや尾行といった『任意捜査』を補助するために使用するパターンです。

そもそも、張り込みや尾行は、いわゆる『刑事ドラマ』でやっているほど簡単でありません。私も警視庁時代に何度も経験しましたが、犯人のいる部屋を見わたせる空部屋なんて都合よくありません。

なので、路上駐車した覆面パトカーの中やビルの屋上、塀の影など、かなり劣悪の環境で長時間の張り込みをしなければなりません。しかも犯人はいつ移動するかわかりませんから、24時間気を抜くことができません。

尾行にしても、付かず離れず、微妙な距離感を保ってついていく必要があるため、一瞬の油断で見失ってしまうこともあります。

このように張り込みや尾行は難易度の高い捜査方法といえますので、車両をつかった犯人の動向を把握したり、犯人を見失った場合に備えて、補助的にGPS捜査をおこなうケースがあると思います。

この場合、もともと任意捜査である張り込みや尾行の補助的な捜査に過ぎず、プライバシー侵害の程度も低いので、GPS捜査は強制処分ではなく、令状も不要とされています。GPS捜査を『適法』とした大阪地裁判決は、これに近い事実認定にもとづいて、任意処分としています。

また、警察庁の移動追跡装置要領も本来的には、上記のような任意処分としての捜査方法を前提としたうえで、乱用されることのないようにさまざまな要件を課しています」

●「令状」が必要になるパターンは?

「もう1つは、GPS捜査を行動確認のための捜査方法として使用するパターンです。

たとえば、数カ月間にわたるなど比較的長期のスパンで、1日100回以上の位置検索をおこなって、24時間犯人の動向を監視するような捜査手法です。

『ここまでやると捜査上必要とは認めがたい』場合にも検索をおこなうことになり、プライバシー侵害の程度も高いことから、これまでの判例理論にあてはめれば、強制処分といわざるをなくなります。

そして、強制処分だとすると、GPS捜査による位置検索は、捜査官が五官の作用によって犯人の位置情報を観察する『検証』としての性質を有しており、検証令状を取得するべきという結論になります」

●24時間の行動確認をおこなうようなやり方だった?

「GPS捜査を『違法』とした一連の下級審裁判例と今回の名古屋高裁判決は、GPS捜査を24時間犯人の行動確認をおこなうようなやり方で使用したパターンと認定したうえで、検証にあたることから、強制処分として令状が必要としたものです。

これに対して、『適法』とした大阪地裁は、任意捜査を補助するために使用したパターンに近いと事実認定したため、任意処分であり『適法』としたものです。

また、『重大な違法といえない』とした大阪高裁判決は、強制処分か任意処分かは明示していません。

ただ、GPS捜査で得られる情報は、対象車両の所在位置に限られており、使用者の行動の状況が明らかになるものではないこと、車両の位置情報をたえず取得・蓄積し過去の位置情報を網羅的に把握したものでもないことから、結論としてプライバシー侵害の程度は大きいものではないとしています。

このことから考えると、どちらかというと、任意捜査を補助するために使用したパターン、もしくは中間に近いと事実認定しているように考えられます」

●立法措置も検討すべき

「このように、GPS捜査には2つのパターンがあることから、事実認定のレベルでどちらなのか、丁寧に検討することが必要です。

ただし、一連の裁判例を読む限り、GPS捜査を24時間犯人の行動確認を行うようなやり方で使用したパターンが多いようです。

参考までに、アメリカ連邦最高裁は2012年1月、他人の自動車に令状なくGPSを取り付ける行為について違法性を認めています。

また、日本でも、携帯電話の基地局にかかる位置情報を取得する場合(犯人が所持している携帯電話の電波から犯人の居場所を検索する場合)は、検証としていわゆる『位置探索令状』を取得するという実務の運用もあります。

アメリカ連邦最高裁の判断や位置探索令状とのバランスからすれば、GPS捜査を24時間犯人の行動確認をおこなうようなやり方で使用するパターンについては、強制処分として検証許可令状を取得しておこなうべきであり、必要があれば立法措置をとるべきでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る