9930.jpg
なぜ小保方さんは「博士号取消」でないのか?〜早大理工出身「理系弁護士」が読み解く
2014年07月18日 16時17分

理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが、大学院生時代に提出した博士論文の問題について、早稲田大学の調査委員会は7月17日、調査結果を公表した。

調査委員会は、小保方さんの博士論文に複数の「不正」があったと認定しつつも、「学位取消には該当しない」と結論づけたが、ネット上では「理解できない」という批判の声が渦巻いている。

なぜ、調査委員会はそんな結論に到達したのか。記者会見場で配布された資料を、早大理工学部出身の三平聡史弁護士に分析してもらった。

理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが、大学院生時代に提出した博士論文の問題について、早稲田大学の調査委員会は7月17日、調査結果を公表した。

調査委員会は、小保方さんの博士論文に複数の「不正」があったと認定しつつも、「学位取消には該当しない」と結論づけたが、ネット上では「理解できない」という批判の声が渦巻いている。

なぜ、調査委員会はそんな結論に到達したのか。記者会見場で配布された資料を、早大理工学部出身の三平聡史弁護士に分析してもらった。

●「不正行為」と「学位の授与」に因果関係がない?

「調査委員会は、小保方氏の行為が、学位取消に『該当しない』という見解を示しました。

その理由は『著作権侵害等の不正行為』と『学位の授与』に『因果関係がない』というものでした」

博士論文での不正と学位が授与されたこととの間に「因果関係がない」とは、いったいどういう意味だろうか?

「その部分の理論的構成は、複雑です。

まず最初に重要なのは、小保方氏の『不正』の程度が重く、適正な審査がなされていれば不合格=学位が授与されないと、調査委員会も明確に認定していることです。

これだけを見ると、不正行為と学位授与には『因果関係がある』。つまり、不正行為があったから、学位も授与されないという結論になりそうにも見えます。

しかし、結論としては『因果関係なし』となっています」

そこがわからない。

●「間違って草稿を提出した」と認定

「その背景には、2つのアクロバティックな判断があります。ひとつめは『過失は不正の方法でない』としたことです。

早稲田大学は、学位が取り消される要件について、『不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき』としています(同大学位規則23条)。

調査委は、この『不正の方法』について、『過失は含まれない』と解釈しました。

そして、小保方さんの主張を受け入れて、『提出された博士論文は草稿を誤って提出したものだった(過失だった)』と認めました。

その結果、『著作権侵害の大部分は考慮から外す』という操作がなされたのです。それに基づいて、『不正』の影響は小さかった、と判断したものと考えられます」

今回の博士論文には、数々の問題点が指摘されているが、調査委が「提出されたのは草稿だった」と認定したことによって、大きな問題点のいくつかが「不正の方法にはあたらない」と認定され、その結果、「不正の影響は小さかった」とされたようだ。

●「審査の不備が大きく影響した」という評価

「ふたつめの判断は、今回の博士論文が、誤った形で博論審査に合格し、学位が授与されてしまったことについて、『審査体制の重大な欠陥・不備』との因果関係が濃い、と判断したことです」

それはつまり、小保方博士論文が合格したのは、主に審査した側がダメだったから、ということだろうか?

「そうですね。つまり、『誤った博士論文審査の合格・学位授与』が起きてしまったことの原因を2つ並べて、(1)不正の影響は小さい、(2)審査の不備の影響は大きい、と判断したわけです」

●最終判断は調査委員会ではなく「大学」が出す

こうした判断は妥当?

「以上の理論的判断・解釈論は、それぞれが『解釈の幅が大きい』ものと言えます。

評価の幅が大きく、判断する人や価値観によって判断結果のブレが大きいです。サイエンス的に言えば再現性が低いということです。

全体を見ると『甘い審査でいったん合格してしまえば、後から不備が発覚しても撤回されない』というような印象を受けます・・・と思ったら、調査委の発表資料も、最後に言い訳的にそのようにコメントしていますね」

三平弁護士は、こう解説したうえで、次のようにつけ加えていた。

「ただし、今回示された調査委員会の調査結果は、あくまでも『調査委員会の見解・判断』です。『大学の判断』とイコールではありません。

肝心の『大学の判断』については、『調査委員会の調査結果』を踏まえて考慮・判断することになります。

『学校を卒業していないという悪夢』から、小保方氏は、まだ完全に醒めたわけではないのです」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る