2023年6月14日に岐阜市の陸上自衛隊射撃場で隊員3人が死傷した事件は、犯行時の状況や逮捕された男性隊員の動機などについて捜査が続けられている。

報道によると、捜査は現行犯逮捕した岐阜県警が事件翌日までおこなっていたが、その後は「自衛隊警務隊」が主導することになったという。7月4日には被疑者の再逮捕が報じられたが、これも警務隊によるものだ。

なぜ警察ではなく、自衛隊内部の組織が捜査しているのだろうか。陸上自衛隊予備自衛官の資格を持つ澤井康生弁護士に聞いた。

●警務隊は「逮捕、取調べ、送致も可能」

——自衛隊警務隊とはどのような組織でしょうか。

自衛隊警務隊は、自衛官が犯した犯罪や自衛隊の庁舎内における犯罪等について、刑事訴訟法上の司法警察職員（警察官）として職務をおこなうことができます（自衛隊法96条）。

いわゆる「特別司法警察職員」の一種です。これに対し、「一般司法警察職員」には交番のお巡りさんや刑事などの警察官が当てはまります。

特別司法警察職員は、特定の管轄下でのみ犯罪捜査を行う権限を与えられます。自衛隊警務隊のほか、麻薬取締官、海上保安官、労働基準監督官などがこれに該当します。

犯罪捜査を行う権限があることから、逮捕や捜索差押え、取調べ、検察庁への送致をおこなうことができます。

——今回のように具体的に犯罪捜査をすることは珍しいのでしょうか。

自衛隊警務隊が報道されるような重大犯罪を捜査した例はあまりありません。最近では2013年に発覚した防衛大学校保険金詐欺事件があるくらいです。

この事件は、防衛大学校内の生徒数人が組織的に保険会社から保険金を騙し取ったという事案で、警務隊がすべての捜査をおこない、検察庁に送致しました。

●警察が関与できないわけではない

——特別司法警察職員が捜査する事件に警察は関与できないのでしょうか。

警察官の捜査権限が排除されるわけではありません。両者が合同で捜査することも可能です。あくまで自衛隊内部の犯罪を捜査する権限があるだけで、一般国民に対する司法警察権や行政警察権は有していません。

自衛官による事件でも、ほとんどのケースが脱柵中（駐屯地から脱走すること）の犯罪や勤務時間外の犯罪です。その場合は、警察が捜査することになります。

今回のように自衛官候補生が射撃訓練中に射撃場で教官を射殺するなど前代未聞の事件です。自衛隊警務隊は殺人事件の被疑者の取調べ経験が豊富ではないことから、岐阜地検の担当検事の指示を仰ぎつつ取調べにあたっているものと思われます。

また、警務隊は定期的に指紋採取や足跡採取などの鑑識研修をやっているはずですが、科捜研がやっているような銃器鑑定や被害者の司法解剖も必要となってくるため、岐阜県警と協力して事件の解明に努めてほしいです。

——自衛隊警務隊はどのようなメンバーで構成されていますか。

警務隊には自衛官の中から陸上自衛隊小平学校において警務官としての基礎教育課程を修了済みの者を陸上幕僚長が任命します。

警務官（刑事訴訟法上の司法警察員に相当）とそれを補佐する警務官補（刑事訴訟法上の司法巡査に相当、あくまで補佐的事務なので令状請求や送致権限はありません）から構成されています。警務官は3等陸曹以上の自衛官、警務官補は陸士長以下の自衛官が任命されます。

自衛官の階級は、上から「将官、佐官、尉官、曹、士」の各クラスに分けられます。3等陸曹は曹クラスの中では一番下の階級です。陸士長は士クラスの中では一番上の階級です。